新古書店研究
はじめに
第1章 古書流通の〈ニューウェイブ〉
第2章 新古書店が標的にする市場
第3章 新古書ビジネスの実像と将来
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■2006年 4月2日
新古書店研究を掲載しました。
■2006年 4月2日
Laboページを制作しました。
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1998-2001ごろ執筆(未完成・未発表)
江下雅之
新刊書店も古書店も、零細規模の店舗が圧倒的に多い。売り場面積が五十坪もあれば、けっこう広い書店という印象を与えるだろう。そして九〇年代の出版不況では、年間に千店という勢いで中小・零細規模の書店が倒産し続けた。中小だけでなく、京都の駸々堂のような地元大手の書店が経営を破綻させた例もある。
一方、地価の下落や規制緩和によって、大型店舗が九〇年代後半になって続々と登場した。東京二三区内だけでも、紀伊国屋書店新宿南店、ジュンク堂書店池袋店など、売り場面積が千坪もある巨大店舗が誕生した。いずれも店頭には数十万冊もの本が並ぶ。
こうした超巨大店舗だけでなく、郊外の幹線道路沿いに、売り場面積が百坪以上で駐車場を併設し、深夜営業をおこなう書店が増えている。MRSと同様、全国規模で支店網を拡大している〈TSUTAYA〉のような新刊書店もあれば、県レベルで複数の店舗を構える小規模系列書店も登場した。小さな書店が淘汰の波にされされる一方で、大型店舗の設置や支店網の拡大をはかる書店は増えている。
雑誌にしても書籍にしても、桁違いの多品種少量販売という特色があるため、書店は大きければ大きいほどいい面がある。年間に六万点以上の新刊が刊行される一方で、月々の本の売れ行きで新刊が占める比率は二割以下でしかない。しかも、雑誌や売れ筋のコミック、新刊の文庫本などは、コンビニエンス店や駅のキオスクでも販売されているため、一般書店では、既刊書をどれだけ置けるかが集客力の大きな要素となっている。これこそが、小さな書店が淘汰され、大規模店が台頭する大きな原因なのだ。
事情は古書店でも同様で、八〇年代後半以降、店頭在庫が十万冊以上ある店舗が誕生している。一般に、新刊書店よりも古書店の方が本をぎゅうぎゅう詰めにしているため、店舗面積あたりの店頭陳列量は多い。それでも街中で見かける古書店で一〜二万冊、大きめの店舗でも数万冊といった規模だ。売り場面積が相対的に広いMRSでも、書架の配置をゆったりと取っているため、店頭にある本はせいぜい十万冊程度である。
その点、郊外型大規模古書店と呼ばれる形態の店は、売場の総面積が百〜三百坪ぐらいの規模があり、MRSよりも密集度の高い書架の配置をおこない、店頭在庫が二十万冊を越えることがめずらしくない。取り扱う本の種類も、MRSのように若い人向けの文庫本やコミックに限定されることなく、ハードカバーの文芸書や学術書、新書ノンフィクション、一般雑誌など、かなり広範囲にわたっている。
こうした形態の古書店は、かならずしも全国各地に見られるわけではない。大都市圏の郊外――首都圏なら八王子市や相模原市、中京圏なら三重県内の国道二三号線沿いといったところに集中して見られる。そのようなエリアにはMRSがライバルとして進出しており、地域によっては激しい競合が繰り広げられている。
ともに古書店の新勢力であるMRSと郊外型大規模古書店は、業態面で共通する点が多い。まず第一に、どちらも積極的な拡大路線を展開をしている。すでに述べたように、書店には規模が大きければ大きいほど好都合な面がある。経営者や店長がゼロから古書販売を始めた例の多いMRSや郊外型大規模店の場合、既存の古書流通ルートからの仕入れに依存できないため、個人からの買い取りが中心となってしまう。こうした面では、規模の利点が発揮されやすい。
第二に、新勢力は稀覯本を地道に仕入れて販売するのではなく、足の速い本を中心にそろえ、薄利多売の商売を徹底している。とりわけどちらもコミックスの取扱比率が高い。おおい店舗で六割、少ないところでも三割以上がコミックで占められている。
第三に、古書相場を把握したベテラン店員が少なく、バイトやパートの比率が高い。個人からの買い取りをおこなうときも、本の状態や売れ行きなど、かなり大ざっぱな基準が用いられる。系列によっては、この本ならいくらで買い取るというリストをあらかじめ作成している。そのなかには、古書市場でも人気のある絶版本が含まれているときもあるが、専門店の値決めにくらべれば、かなり大ざっぱな決め方となっている。
年中無休で夜十時から十二時ぐらいまで営業している点も共通している。立地にしても、どちらかといえば、繁華街よりも郊外に多く見られる。専用駐車場を持つ店も多い。常連客を確保するため、割引制度のある会員カードを発行する店も多い。
以上の共通点が見られるために、地域によってはMRSと大規模古書店とが客の取り合いを演じている。しかし、買い取りの傾向や品揃えには相違点もかなりあるため、マニアックな消費者なら、両タイプの店を相互補完的に利用できることも確かだ。
まず第一に、いずれもコミックの取扱比率が高いとはいえ、絶対量は大規模古書店の方が多いため、その分、取扱の範囲が広い。MRSでは大手出版社の売れ筋コミックばかりが店頭に並ぶのに対し、大規模古書店では、中堅出版社の青年コミックやレディース・コミック、あるいは十五〜二十年前に刊行された少年・少女コミックなども多数取り扱う店が少なくない。店によっては、絶版マンガ専門店が主力として扱うプレミア価値の高い本を積極的に買い取り、ビンテージ・コミックス――二十五年以上前に刊行されたコミック――のコーナーを設けるところもある。
第二に、MRSでは古雑誌はあまり取り扱っていないのに対し、大規模古書店では、マニアックな趣味の雑誌からファッション誌まで、比較的潤沢に店頭に並んでいる。なかには雑誌の膨大なバックナンバーを売り物にしている系列もある。保管スペースの問題がつきまとう古雑誌は、広大な店舗とバックヤードを持つ大規模古書店の得意分野といっていい。
ただし、本の状態は全般的にMRSの方がいい。これはMRSの方があたらしい本を重点的に取り扱い、棚の回転率を重視した販売をおこなっているためだろう。そうした点から見ても、大規模古書店の方が、従来の古書販売に近い姿といっていい。
九〇年代後半には大都市周辺部に続々と誕生した大規模古書店のルーツは、岡山市郊外で八三年にオープンした〈万歩書店〉といわれる。それまでにも「売り場面積が広い」という意味での大規模古書店はあったが、稀覯本以外の古書一般を大量に仕入れ、膨大な数を店頭で販売するような形態は、万歩書店がさきがけと見なされている。
京都生まれのオーナーの金本喜岡氏はハスラーとして知られた人で、岡山に移ってから、古書ビジネスに興味を抱いたという。そして古紙集積所の近くに店舗を構えて以降、チリ紙交換(チリ交)要員を通じ、古本・古雑誌を大量に仕入れるようになった。規模が拡大してからは、古書市などからも調達するようになったが、チリ交ルートから大量に仕入れ、なるべく多くの商品を店頭に並べるという発想が、大規模店舗という販売形態につながったのである。開始当初は四十坪ほどだった店舗は、一気に百八十坪にまで拡大した。
その後、万歩書店は岡山市・倉敷市に複数の店舗を開く。MRSのようなフランチャイズ方式の拡大策はとらず、強力な仕入れ・販売力を背景に、岡山県内で確固たる地盤を確保した。ただし、ファミリー店という制度によって、古書店開業の支援はおこなっている。これは万歩書店が初期商品の手当や買い取りのノウハウの提供をおこなうもので、ロイヤリティや加入料などは取らず、経営は各店が独自におこなう。東京の下町にある〈たなべ書店〉はその一例だ。
大規模古書店のルーツとはいえ、万歩書店の店舗のなかには、小規模のところもある。その点、ひたすら売り場面積の広い店舗展開を進めているのではなく、立地条件に応じ、あるところでは二百坪クラスの店を開くこともあれば、売り場面積が四十坪で駐車場のない店舗もある。
取り扱う本は新古書の割合が多いとはいえ、稀覯本の取扱も少なくない。古書組合の即売会でも積極的に買い付けている点など、従来型の古書店と同様の経営形態も残っている。店舗によっては骨董品店のような品揃えをしているところもある。
大規模古書店は郊外に立地することが多いために、「郊外型」という言葉と組み合わせて語られることが多いのだが、東京のJR中央線大久保駅近くにある〈新宿古書センター〉は、例外的に都心部にある大規模店である。ここは東京都町田市に本店がある〈高原書店〉の店舗だが、社長の高原坦氏は、古書流通業界のなかでも理論派として知られる人だ。
同氏によれば、毎年十億もの本が売られているなかで、どの本をどう流通させるかが古書店の役割であるという。大量出版の時代において、本はもはや消耗品として扱われている。ところが、従来の古書業界には、出版物の大洪水を受けとめるダムがない。だからこそ、安い本も高い本も、まんべんなく取り扱おうという方針に至ったというのだ。
そうした理念に裏打ちされた新宿古書センターは、これまでの古書店とも、また典型的な郊外型大規模古書店とも異なった店舗となっている。三階建てのビル全体を占める店舗の一・二階は、文芸書、新書ノベルス、実用書、理工学書、コミック、文庫本など、消耗品扱いされている本を定価よりも安く売るフロアとなっている。レコード、CDの中古も取り扱っている。ここだけを見れば、MRSと同様、足の速い商品を扱う店という印象を受けるだろう。
ところが三階は雰囲気がまったく異なり、神田神保町の専門店のように、文化財といえるような貴重な書籍ばかりをならべている。要するに、新宿古書センターはMRSと専門古書店とを合体させた大型店舗なのだ。安売り本と専門古書店的な書籍をあわせて扱うことを、高原氏は「古本屋ダルマ論」と呼んでいる。
土地コストだけを考えれば、大規模店は郊外に立地させた方が圧倒的に有利なはずだ。現実に街中の古書店はけっして広い店舗は構えず、地方に倉庫を持って、そこに大量の本を保管することがある。店頭にならぶのは在庫のほんの一部にすぎず、そのかわりに目録を作成して倉庫の本を販売するわけだ。古書店のなかには、目録販売のみというところもある。
そうした事情をふまえたうえで、高原書店があえて都心部に大規模店舗を置いたのは、土地コストが高くても人口密度が高いこと、多方面にわたるビジネスをしようと思ったら、ショウルーム的な店舗が不可欠と判断したからにほかならない。
高原書店の場合、徳島県に大型倉庫を持ち、何十万冊という在庫を保管できる体制も整っている。一方では店頭に膨大な数の本を並べ、その一方では大量の在庫をストックできる倉庫を確保したというのも、消耗品から文化財までが渾然一体となって流通する現在の書籍流通の現状に対応し、どのような消費形態にも応じんとするものなのである。
高原書店の本店は、小田急線町田駅から徒歩二分ほどのところにある雑居ビルの二階にある。一フロア全体を売場にした店舗は、大規模店舗といっていい。町田市自体は東京二三区の郊外といっていい位置だが、町田駅は小田急線とJR横浜線が交差するターミナル駅で、行き来する人の数は都心並みといっていい。一般に大規模店イコール郊外の住宅地近辺に立地という図式のなか、新ビジネス街ともいえる地域で営業する高原書店の存在は、今後の古書ビジネスの実験的ケースといえたが、その後ブックオフ系列店が相次いで都心部に立地するところを見ると、高原書店の先見性は正しかったといえそうだ。
東京都文京区といえば、神田神保町の古書店街があるだけでなく、多くの大学が立地する地区でもある。大学は古書店にとってもお得意さまであり、古書店は学生街の「顔」のひとつといってもいい。
八〇年代に入り、東京都文京区を中心に立地していた大学の多くが、より広いキャンパスを求めて郊外に移転した。なかでも八王子市には二十近い大学が集中し、いまや新学生街といってもいい。しかし、大学が移転しても、周辺の店までが一緒に移動するわけではないし、大学の周囲に突然多くの商店ができあがるわけでもない。とりわけ経営に年季の必要な古書店は、いくら大学が立地したからといって、簡単に誕生するわけではない。
そういう常識からすれば、大学が移転しても文化的なインフラが整うのには時間がかかると思われたものだ。しかし実際には、郊外型大規模古書店が登場し、古書店街的な役割を担っている。その代表格といえるのが、大学の一大集積地・八王子で店舗ネットワークを拡大した〈ブックセンターいとう〉グループである。
出発点は、七〇年ごろ八王子市に開店した伊藤書店という古書店だ。ここが移転し、売り場面積が二百坪の〈ブックセンターいとう東中野本店〉となった。場所は中央大学のキャンパスがある丘のたもとにあたり、野猿街道という広い通り沿いに立地し、店舗の向かいには大規模な倉庫がある。周辺にはファミリーレストランやディスカウント店が並ぶ。
東中野本店には、約三〇万冊の古本が店頭に置かれているが、書架の配置も詰め方も余裕があるため、それほど本で充満しているという印象を与えない。取扱量が最も多いのはコミックで、MRSと異なり、大手出版社から中堅どころまで、成人コミックから子ども向けまで、新刊でも購入可能なものから絶版コミックまで、相当幅広い品揃えとなっている。
コミック以外にも、文庫本や新書ノベルス、実用書、新書ノンフィクション、ハードカバー文芸書、大学のテキストに用いられる専門書、ファッション関係の古雑誌などが、広い店舗のなかに置かれている。街中で古書一般を取り扱う小さな古本屋を、商品構成はそのままで規模を三十倍ぐらいにした感じといっていい。
いとうグループは経営者の兄弟や親戚を通じて拡張を進め、東京都八王子市や立川市などを中心に、支店や系列店を増やしていった。どこも百坪を越える売り場面積を持ち、古書一般を取り扱っている。各店とも店頭での買い取りが仕入れの中心となっており、店には本を買いに来る人だけでなく、段ボール箱や大きなボストンバックに何十冊もの本を詰め込んだ人が長い列を作っていることがある。
売りに来るのは周辺に住む人が中心なので、各店舗の商品構成は、立地する環境を反映していることがある。たとえば新興団地の近くにある店舗は、集英社や小学館の子ども向けコミックや、ファンタジー小説、ジュニア小説などの文庫本の比率が高いようだ。その一方、一戸建ての多い住宅地のそばにある店舗は、青年コミックや比較的古い少年コミックが相対的に多く見られる。古本マニアのなかには、こうした特徴の違いを踏まえ、各店舗を一通り巡回している者も多い。
ブックセンターいとう系列とは別に、〈BOOK SUPERいとう〉という系列がある。こちらは伊藤書店を始めた伊藤英也氏の弟、伊藤昇氏が率いるグループだ。本店は東京都稲城市の大丸に置かれ、店舗の多くがおなじJR南武線沿線に立地する。ブックセンター系列に比べると、売り場面積はひとまわり小さな店舗が多いものの、店頭在庫量には遜色なく、むしろこちらの方がマニア受けする内容となっている。
いとう系列では、高原書店や万歩書店が扱っている稀覯本や骨董品は扱っていない。多少のプレミア本は置かれているものの、大半はリサイクル目的の本である。店舗側でも、じっくりと評価すれば値をつけられる本が倉庫に眠っていることは承知しているものの、値決めのできる店員を育成する手間、マニアではなく本を安く買いにくる客が圧倒的多数であるとの現実から、あえて一般古書に絞った販売をおこなっているという。
東京の三多摩地区は新古書店の最大の激戦地となっており、そのなかで一大勢力となっているのが、ブックセンターおよびBOOK SUPERいとう系列店である。郊外型大規模古書店のルーツは岡山の万歩書店かもしれないが、新古書店が台頭してからは、規模にしても取扱対象にしても、ブックセンターいとうこそが典型的な大型量販店という性格をはっきりとあらわしている。
郊外型大規模古書店の売り場面積ランキングを見かけたことはまだないが、私がこれまで訪れた店舗の印象からすると、上位のかなりは三重県を本拠地とする〈万陽書店〉の支店および系列店――〈超書店マンヨー〉が占めるように思われる。関東では圧倒的にブックセンターいとう系列店の規模が目立つけれども、主力店の規模、各店舗に置かれた本の量、バックヤードの在庫量などの点では、超書店マンヨーの方がうわまわっているのではなかろうか。
超書店マンヨー系列については、九八年一月二四日付の日経流通新聞に掲載された大規模古書店の特集記事から知った。そのなかに複数の大規模店舗のデータが比較掲載されていたのだが、店舗面積、商品点数、坪当たりの商品点数のどれをとっても、〈超書店マンヨー伊勢店〉が他を圧倒していた。たとえば商品点数は、店頭に四十万冊もあれば店内に入っただけでも凄さが実感できる量だが、超書店マンヨー伊勢店は百五万冊となっていた。坪あたり四千二百点という密度は、他の店舗の倍以上である。要するにここは、データを見るかぎり、倍以上の売り場面積に倍以上の密度で本が置かれているということなのだ。
取材にあたった記者には申し訳ないが、記事を読んだとき、数字が間違っているのではないかと思ったものだ。古本屋に行き慣れていない人なら、店頭在庫が十万冊の店でも圧倒されるだろう。伊勢店はその十倍なのだから、数字を疑いたくもなる。
新聞記事を見かけた二ヶ月半後、ある仕事の取材で超書店マンヨー伊勢店を訪れる機会ができた。そして実際に店の前に立った時点で、記事どおりのとてつもない規模の大古書店であることがわかった。
見渡すかぎり田圃が広がるなかに、ファミリーレストランや大型ディスカウントが集中する一区画がある。そこでひときわ広い敷地を占めるのが、超書店マンヨー伊勢店であった。駐車場は乗用車百台が楽々とめられる広さで、店舗もそれに応じた規模のものだった。天井は体育館のような高さで、壁沿いには書棚が積み上げられている。圧倒的な広さを持つ店内には、書棚が何百本も林立し、小さな隙間にいたるまで、本を詰めた細いカラーボックスが置かれていた。けた違いの量が置かれていることは、一瞥しただけでわかる。
取扱商品の傾向はブックセンターいとう東中野店に近く、コミックや文庫本・新書ノベルスから、ハードカバー文芸書、実用書にいたるまで、一般に流通している書籍はほぼ網羅されている。ここの特筆すべき特徴は古雑誌の量だろう。ファッション誌、男性誌、女性誌、「航空ジャーナル」などマニアの多い趣味の雑誌が、過去何年分、タイトルによっては何十年分と並んでいる。雑誌は痛みが早くて場所をとることから、まとまった数を置く古書店は少ないのだが、超書店マンヨー伊勢店は、広大な売場を持つ利点を発揮し、普通の古書店では真似のできないことを実現しているのである。
はじめて伊勢店を訪れた四ヶ月後、ふたたびマンヨー傘下の店舗を訪れる機会があった。このときは名古屋方面から車で移動し、名古屋寄りの店舗から片っ端に入ってみた。けっして伊勢店だけが突出して大規模でないことに驚かされたが、店舗によってこれほど雰囲気が異なる系列もめずらしい。
全体的には、古書一般を扱うとう基本線はあるものの、鈴鹿市の白子店は絶版コミックの取扱が潤沢で、マンヨー系列のなかでもマンガ古本の中核的な位置づけになっている。その近くの河芸店は、万陽書店の楠井社長が古レコードの拠点的に据えた店だ。そのほかにも、郷土資料に強い店があったり、中古CDやゲームソフトの取扱が多い店があったりと、店舗によって何らかの拠点的な機能を担っている。
三重県という地域は、けっして人口の大集積地があるわけではない。であれば、大規模古書店の経営は困難なように思われるが、楠井社長の話によれば、客の分布は半径五十キロ圏なのだという。名古屋市中心部から伊勢店まで、高速道路を一時間かけてやってくる客が少なくない。名古屋からの出張で伊勢方面を訪れたサラリーマンが、帰りぎわにあちこちの店舗に立ち寄ることも多いらしい。
雑誌のバックナンバーを集めているマニアのなかには、東京からはるばる遠征する者さえいる。伊勢駅でタクシーを拾い、運転手に東京から来たことがわかると、「超書店マンヨーに行くのか?」と聞かれることもあるというくらいだ。実際のところ、雑誌のバックナンバーを過去何十年と遡及して集めるのは、古書収集のなかでも困難なことである。超書店マンヨーのように、まとまった数を置いてある店なら、マニアが集まっても不思議ではない。
この超書店マンヨー系列店にしても、マニアックな本の価格設定が多少荒っぽいなど、良きにつけ悪しきにつけ、新古書店の特徴が見られることは確かだ。しかし、スケール・メリットの徹底ぶりという点では、この業態でトップクラスといっていいだろう。
プレミア対象のマンガ古書に関するかぎり、いちばん安く買うチャンスが多い店は、まんだらけと佐藤書房だと思う……と書くと、かなりのブーイングが来そうだ。しかし、20年以上にわたり、いろいろな古書店でいろいろなプレミア古書を買い続けてきた経験にもとづいた結果、こういう結論に到達したのである。
もちろんモノによっては他の店でもっと安く買えることはある。まんだらけで買った翌日に、もっといい状態の本を別の店でもっと安く売っていた、という経験も何度もした。佐藤書房も同様である。しかし、一度や二度の経験で「高い」「安い」を云々するのは間違いだ。何年も利用していれば、この二店の価格設定が他店にくらべていかに安いかがわかるはずである。
あと、神保町の中野書店の価格設定も信頼が置けると確認している。この店のマンガ古書に対する姿勢は、本当に誠実の一語に尽きると思う。それが老舗のプライドというものかもしれない。