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別冊宝島494 お宝コミック・ランキング(宝島社/発行)
2000年3月25日発行 pp.26-29掲載
江下雅之
週刊誌の相次ぐ創刊、人気マンガのアニメ化、そして新書判コミックスの登場など、六〇年代はマンガの飛躍期となった。その原動力となったのは、手塚や藤子らの大御所にも増して輝いた作家たちだ。
正義のヒーローが悪の軍団から平和を守るという筋書きは、少年マンガでは昔から最もおなじみのパターンだ。そして数あるヒーロー漫画のなかでも、桑田次郎が描いた作品は、ひときわ人気が高かった。
黄金バット以降、「正義の味方」の代名詞的存在ともいえる『月光仮面』は、単行本でも付録マンガでも高値が続いている。五〇年代末の探偵漫画ブームのヒット作『まぼろし探偵』は、サンコミックスなど新書判でも出ているが、全話を完全に収録したものはないので、付録マンガが依然として売れている。
六〇年代の始め、桑田次郎は抜きんでたヒットメーカーであった。桑田にとって最大にして最後のメガヒットは『8マン』だが、このTVアニメは「鉄腕アトム」をしのぐ視聴率を記録していた時期もある。また、8マンはキャラクター商品の先駆的な存在で、長らく「丸美屋のふりかけ」のイメージを引っ張ったものだ。
『8マン』の原作者は後のベストセラーSF作家・平井和正だが、平井・桑田のコンビは、『超犬リープ』『デスハンター』『エリート』をはじめヒットを連発していたものだ。そのどれもが現在でも人気が高く、お宝の定番となっている。
昭和二〇年代の大漫画家・福井英一が手がけた『赤胴鈴之助』は、連載開始直後に福井の急逝というアクシデントに見舞われたが、後を引き継いだ武内つなよしによって、見事に大ヒット作となった。七〇年代始めになってTVアニメが放映されたことで、幅広い世代から愛された「時代劇マンガのアイドル」となっている。ちなみに『赤胴鈴之助』は昭和三二年十月にテレビドラマ化されたが、これは吉永小百合のテレビデビュー作だ。
武内は六〇年前後に多数のヒット作を生んでいる。月光仮面と同様、テレビ映画としてもヒットした『少年ジェット』は、付録マンガのなかでも人気商品の一つだ。その他では、五〇年代にヒットした『平原児サブ』『黒帯三平』などが高値を維持している。
最近ではすっかり下火になってしまったが、かつての少年マンガ誌に「忍者」は欠かせないキャラクターだった。そして忍者マンガと聞いて、すぐに思い浮かべるキャラクターは、週刊誌に慣れ親しんだ世代なら横山光輝の影丸や白土三平のサスケだろうが、月刊誌世代にとっては、間違いなく杉浦茂の描く猿飛佐助(をはじめとした真田十勇士の面々)だろう。師匠・田河水泡(『のらくろ』の作者)譲りのくりくりした目でおなじみの絵は、長野県真田町のシンボルキャラクターになっている。
杉浦の単行本や付録マンガは根強い人気があるため、それなりに流通量はあっても、入手が困難となっている。ただし、『少年児雷也』『少年西遊記』などは、ペップ出版から『杉浦茂ワンダーランド』というシリーズで復刻されている。
杉浦が愛らしいキャラクターの忍者マンガなら、堀江卓の矢車剣之助は、荒唐無稽な仕掛けが次々と登場し、ピストルも撃ちまくる派手なアクションで人気があった。秋田書店のサンデーコミックスとして単行本化されたが、収録されているのは一部のエピソードのみだ。
時代もの以外でも堀江は「活劇」を得意とし、『ブルージェット』『ガンキング』など、アクションを売り物にしたマンガが多数ある。西部劇の『ガンキング』の単行本は、現在ではかなりの高値になっている。
ヒーロー漫画のジャンルでは、一峰大二は桑田次郎と並ぶヒットメーカーとなっていた。ともに岡友彦という共通の師のもとに集ったメンバーだ。
桑田が『月光仮面』『まぼろし探偵』なら、一峰は『怪傑ライオン丸』『白馬童子』『七色仮面』だ。また、SFマンガ『電人アロー』は大ヒットした。ウルトラマン・シリーズ第二段のウルトラセブン(サンコミックス版)では、一〜四巻が桑田次郎で、五・六巻が一峰大二だ。六〇年代の始め、少年マガジンが一気に部数を伸ばしたとき、看板作品だったのが桑田次郎の『8マン』と一峰大二の『黒い秘密兵器』だった。六〇年代前半に限っていえば、桑田と一峰がトップ2だったのである。
あのトキワ荘に、手塚治虫に続いて入居したのが寺田ヒロオだ。いわゆるトキワ荘グループでは兄貴分的な存在となった。『背番号0』『スポーツマン金太郎』など、健康的なキャラクターが活躍する作品をヒットさせた。六一年には第一回講談社児童まんが賞を受賞するなど、懐漫ファンにはおなじみの漫画家ではあるが、人気のピークが短かったため、記憶に残っているのはその世代だけとなっている。
六〇年前後に月刊誌で活躍した作家で、『ファイト先生』『ストップ!にいちゃん』の二作で六七年には第十二回小学館漫画賞を受賞している。
六〇年代はテレビアニメが誕生し、一気に拡大した時期だが、このアニメの分野で手塚治虫・虫プロとともに大きな足跡を残したのが、吉田竜夫と竜の子プロである。このプロダクションが手がけたアニメには、『マッハGoGoGo!』『宇宙エース』『科学忍者隊ガッチャマン』『みなしごハッチ』など、大ヒット作が目白押しだ。テレビ映画『忍者部隊月光』も原作は吉田竜夫である。
竜の子プロには吉田の実弟・九里一平をはじめ、辻なおき、古城武司などの顔ぶれがいたが、いずれも格闘技マンガでヒット作がある。吉田自身は六〇年代初頭に少年マガジンで『チャンピオン太』というプロレスマンガを連載していた。
SFマンガのことを六〇年代ごろまでは「空想科学マンガ」とか「科学冒険マンガ」などと言っていたが、河島光広はそのジャンルでは最も人気のあった漫画家だ。とくに少年画報誌で連載されていた『ビリーパック』は、いろいろな大道具がふんだんに使われ、子どもたちには特に人気があったが、河島の早すぎる死によって中断されてしまった。
サンコミックから出ている『地獄くん』『人形地獄』しか知らない人には、ムロタニ・ツネ象イコール怪奇漫画家、それもやたら気色悪いキャラを描く人、という印象が強いはずだ。しかし、それよりも以前には、『ファイトだ!!ピュー太』などのユーモア漫画を描いていた。
ロボットが主人公の漫画でも、鉄腕アトムはスマートなボディでさっそうと活躍するが、前谷惟光の『ロボット三等兵』や『ぼくはロボット』は、「オズの魔法使い」的なブリキ人形がおどける物語だ。もちろんロボットものだけでなく、『戦国竜虎伝』など、六〇年代の定番ジャンル、時代ものも手がけている。
時代はややさかのぼるが、戦前から五〇年代にかけて、ストーリーマンガとは別に、獲物語というジャンルが一時期隆盛を極めた。永松建夫の『黄金バット』、山川惣治の『少年王者』は最大のヒット作であり、福島鉄次の『沙漠の魔王』は全巻揃いが百万円以上のお宝になっている。小松崎茂もまた、『地球SOS』『大平原児』などのヒット作を出している。
小松崎茂は漫画家ではない。絵物語以降の主な活動分野は小説の挿し絵や図解本の絵柄で、とくにSF小説(というよりも、当時の用語では空想科学小説)では「絵・小松崎茂」はおなじみのクレジットだ。たとえばスペースオペラの巨匠、バローズの火星シリーズ(秋元書房)のカバー画や挿し絵を手がけたのは小松崎だ。また、おなじバローズのターザンは、秋田書房からサンデーコミックスとまったく同じ装幀で翻訳が出ているが、これもカバー画および挿し絵は小松崎が手がけている。
六〇年代・七〇年代には、藤子不二雄、松本零士、永井豪らもSF小説の口絵などを描いている。それがいまやお宝になっているが、「小松崎茂/画」の本もまた、マニアには人気が高い。
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宝島社 2000年3月25日 840円 4色カラーの豊富な図版で多数の稀覯本を紹介しています。 |
「月光仮面」(2) 桑田次郎・川内康範 昭和31年10月15日 講談社 |
「8マン」 桑田次郎・平井和正 東邦図書出版 |
「赤胴鈴之助」 武内つなよし 少年画報昭和34年2月号付録、少年画報社 |
「平原児サブ」 武内つなよし 昭和36年12月25日 少年画報社 |
「少年児雷也」 杉浦茂 少年昭和32年6月号付録、光文社 |
「矢車剣之助」 堀江卓 少年2月号付録、光文社 |
「電人アロー」 一峰大二 少年昭和40年1月号付録、光文社 |
「もうれつ先生」 寺田ヒロオ 昭和34年10月30日、東邦図書出版 |
「ジャジャ馬くん」 関谷ひさし 冒険王昭和33年2月号付録、秋田書店 |
「チャンピオン太」 吉田竜夫・梶原一騎 昭和37年8月10日、講談社 |
「ビリーパック」 河島光広 少年画報12月号付録、少年画報社 |
「ファイトだ!!ビュー太」 ムロタニ・ツネ象 小学三年生昭和43年10月号付録、小学館 |
「ぼくはロボット」(1) 前谷惟光 寿書房 |
「モゲラ」 小松崎茂・香山滋 おもしろブック昭和33年2月号付録、集英社 |