新書判時代の黎明期に出た人気作

別冊宝島494 お宝コミック・ランキング(宝島社/発行)
2000年3月25日発行 pp.34-36掲載
江下雅之

時代を超えた人気のある作品もあれば、その時代にだけひときわ輝いた作品もある。五〇年代から六〇年代前半にかけてのヒット作は、お宝というかたちで命を長らえているのに比べると、六〇年代後半の作品は案外と影が薄くなっているようだ。

集英社・講談社系少女コミックスの初期ラインナップ

 六〇年代は第二次まんがブームの起きた年代だが、おなじ六〇年代でも、前半と後半とでは、内容がかなり異なる。後半は週刊誌・新書判コミックなど、現在に通じる仕組みが定着しはじめた時期だ。しかし、その流れが本格化したのは七〇年代に入ってからのことで、六〇年代の後半というのは、一種、端境期的な位置づけもある。
 七〇年代に大ヒットした作品、あるいは人気が出た作家は、現在でも多くのファンに記憶されている。しかし、六〇年代後半となると、かなりのマンガ好きでも覚えていない作品・作家が多い。
 たとえば少女マンガでいえば、マーガレットコミックスが創刊されて間もないころの作品は、当時読んでいたはずの人たちでさえ、けっこう記憶がおぼろげなものだ。鈴原研一郎の『それいけ!マリー』など、舞台はパリ、テーマはファッションと、当時の少女マンガでは定番的なストーリーだが、いまではすっかりと「過去の作品」となっている。
 望月あきらの『すきすきビッキ先生』もまた、絶版マンガ専門店の目録にときおり掲載される程度だ。もっともこの作者の場合、『サインはV!』のイメージが強すぎるのかもしれない。
 マーガレットコミックスの初期作品では、なんといっても西谷祥子、水野英子、忠津陽子らの人気が高い。若木書房の貸本少女マンガ時代からのベテラン、武田京子の作品も初期ラインナップに入っているが、マニアの間でもあまり話題になることがない。
 集英社のりぼん系でも、巴里夫や大矢ちきといったあたりは、けっこう懐漫ファンが探しているが、もりたじゅんの『キャー!先生』あたりは、当時の人気に比べると、現在の評価は低い部類だろう。
 ライバルの講談社系少女コミックでは、大御所・里中満智子、大和和紀、若木少女貸本から活躍していた大ベテランの高階良子に青池保子、『サインはV!』の望月あきらたちが初期ラインナップを飾っていた。里中・大和は七〇年代・八〇年代も講談社から多数の作品を掲載しているが、青池は初期に何作かが出ているだけだ。いまの読者には、『エロイカより愛をこめて』の印象が強すぎるだろう。

秋田サンデーに見る端境期のヒット作

 少年マンガの世界でも、六〇年代末に刊行された作品に、時代の端境期とでもいうべき痕跡が見られる。
 たとえばこの時期、野球マンガの人気が高かった。時あたかもジャイアンツの長島・王の全盛期で、世の中は「巨人・大鵬・卵焼き」の時代だ。そしてこの時代の野球マンガは、超人的な主人公が魔球を開発し、縦横無尽の活躍をして永久欠番を譲られ、やがて力つきて去って行くというパターンであった。これはそのまま『巨人の星』に受け継がれているが、現代の読者にとっては、『巨人の星』こそがオリジナルで、『黒い秘密兵器』や『ちかいの魔球』などは記憶外のことであろう。
 ヒーローものでも「過去のもの」になってしまった作品が少なくない。横山光輝の『仮面の忍者赤影』はテレビ化もされ、赤影の変装キットは雑誌やお菓子の景品としては定番とでもいうほどおなじみのものだった。しかし、いまとなっては当時の代表的な忍者マンガは白土三平の『サスケ』であり、横山光輝の時代マンガといえば『伊賀の影丸』だ。駄洒落をいうつもりはないが、赤影もすっかりと影が薄くなった。
 もちろん、今でも世代を越えた人気を保った作品もある。桑田次郎/平井和正のヒットコンビが手がけた『8マン』は、まだまだファンにはおなじみのものだ。しかし、かつてはテレビアニメで『鉄腕アトム』をうわまわる人気があったことを考えると、やはり影は薄うなったといわざるをえない。
 小沢さとるの『青の6号』もまた、いまだにファンの多い作品だが、これが少年サンデーに連載された当時、青6関係のプラモデルを持った子どもが銭湯に押し寄せたものだ。その熱狂も、しょせんは過去の話である。


いまや古典となった「二四年組」の作品

トキワ荘グループが「お宝」を次々を生み出した集団なら、その「次」の担い手は、「二四年組」を置いてほかにない。「新感覚派」ともいわれた革新的なこのグループは、いまではすでにマンガの古典といっていい名作を生んでいる。

サンコミは二四年組の宝庫

 竹宮恵子と萩尾望都が約三〇年前に集った東京大泉のアパートは、「少女マンガ版トキワ荘」ともいわれる。ここには後に山岸涼子、山田ミネコ、伊藤愛子、ささやななえたちが参加した。この大泉グループに加え、大島弓子、木原敏江など、昭和二四年前後に生まれた同世代の作家グループを「二四年組」と呼ぶわけだが、この作家たちの初期作品群は、「次」のお宝候補と見ていいだろう。
 二四年組のなかでも、竹宮恵子と山岸涼子のヒット作品は、朝日ソノラマのサンコミックスと白泉社の花とゆめコミックスにほぼ収録されている。サンコミはカバーデザインが美しいのもファンが多い理由の一つだが、竹宮・山岸の本のカバーは、ずば抜けて素晴らしい。もちろん、ファンには見逃せない作品が目白押しなので、品不足の状態になれば、一気にプレミアがつくだろう。
 大島弓子の作品もまた、サンコミックスに多数収録されている。ただし、代表作の『綿の国星』は花とゆめコミックスだ。

古いマーガレットコミックスと花とゆめコミックスも要チェック

 竹宮と並ぶ巨頭である萩尾望都の作品は、サンコミには一作もなく、小学館のフラワーコミックスやプチコミックスに集中している。初期のSF作品の多くは、プチコミックスの作品集に入っており、そろそろファンの間で争奪戦が始まっている。また、SF作家の光瀬龍の代表作『百億の昼と千億の夜』を萩尾はコミック化しているが、これは少年チャンピオンコミックスから出ている。原作もさることながら、萩尾の描くキャラクターの評価もきわめて高い。
 木原敏江(木原としえ)の場合、初期作品は集英社のマーガレットコミックスに集中している。まだ比較的流通量が多いため、ブックオフなどのリサイク店でも入手は可能だ。七〇年代後半以降の作品は、『摩利と真吾』をはじめ、花とゆめコミックスから出ている。


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別冊宝島494
お宝コミック・ランキング
宝島社
2000年3月25日
840円
4色カラーの豊富な図版で多数の稀覯本を紹介しています。

図 版

「それいけ!マリー」鈴原研一郎、集英社MC 「すきすきビッキ先生」望月あきら、集英社MC
「誰もわかってくれない」武田京子、集英社RMC 「キャー!先生(前後)」もりたじゅん、集英社RMC
「黒い秘密兵器(全8)」一峰大二・福井和也、秋田書店SC 「ちかいの魔球(全7)」ちばてつや、秋田書店SC
「伊賀の影丸(全15)」横山光輝、秋田書店SC 「青の6号(全3)」小沢さとる、秋田書店SC
「百億の昼と千億の夜(全2)」萩尾望都・光瀬龍、秋田書店CC 「アンドロメダ・ストーリーズ(全3)」竹宮恵子・光瀬龍、朝日ソノラマSCM

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