□過去の単発掲載原稿
■別冊宝島494 お宝コミック
□過去の連載原稿
|
別冊宝島494 お宝コミック・ランキング(宝島社/発行)
2000年3月25日発行 pp.110-113掲載
江下雅之
最近急増してきたインターネット通販なら、移動の手間がまったくかからないので、お宝探しには強力な武器になりそうだ。だがこのネット通販、本当に役立つのだろうか。実際に利用した結果をレポートしてみたい。
マンガ古書の流通には、すでにインターネット通販がかなり広まっている。これを利用すれば、古本屋を片っ端から歩きまわらなくてすむのだから、本を探す手間は大幅に省けるというものだ。もちろん、実物の状態を確認できないまま注文しなくてはいけないとか、料金を支払ってから品物が届くまでが心配という問題はあるが、こうした点は、古書流通に定着している目録販売とまったくおなじなので、「インターネットだから」という問題ではない。
最も一般的なインターネット通販のパターンは、WWWに掲載された古書店の在庫目録にアクセスし、希望するものを電子メールで注文するという方法だ。ネット通販に力を入れている「3軒茶屋の2階のマンガ屋」を例に取るなら、まずはこの店の通販サイトhttp://www.mangaya.co.jp/にアクセスし、在庫情報から自分の探している本を調べる。ほしいものがあったら、注文フォームに商品データを入力して送信するか、電子メールにコピーして店のアドレスに送る。注文後には内容の確認と請求金額を示した返信メールがくるので、郵便振替などを利用して代金を支払う。店側で入金確認後、注文品が郵送か宅配便で届けられる。
こうした流れは、他の古書店通販ページでもほぼ同じだ。書籍やビデオなどのネット通販では、カタログページの商品欄をチェックするだけで注文フォームを作成できるのが一般的だが、古書の場合、注文品のデータは客側が一つひとつ拾っていかなくてはいけないところが多い。古書は在庫が一定していないため、ページ上に掲示される情報が頻繁に更新されるからなのだろうが、大量に注文するときは煩わしい。
それ以上に不便なのが代金の支払いだ。電子マネーはおろか、クレジットカードを利用できるところも少数派だ。現時点でも最も簡便で経済的な支払い手段は郵便振替だが、ネット上で決済できないのはもどかしい。
実物を確認できないネット通販で古書を購入するときは、本の状態に関するデータを十分にチェックしておく必要がある。この点、店によって評価レベルに微妙な違いはあるが、たいていの古書店の在庫情報ページには、本全体の状態、カバーや背表紙の傷み具合、帯の有無、発行年月日などが詳しく掲載されている。
一部の通販サイトではオークション方式の販売も行っているが、一般には「早い者勝ち」というのがマンガ古本のインターネット通販の世界だ。こうなると、レア本ゲットのためには、頻繁に各書店の在庫ページをチェックしなくてはならない。こういう面倒を解消してくれるのが「探求本」だ。
古書店は在庫情報のすべてをインターネット上で公開しているわけではない。利用者が「こういう本を探している」と問い合わせると、掲示していない在庫を照会してくれる店も多い。これならいつ更新されるとも知れぬページをしじゅう訪れるという手間が省ける。さらに便利なのは「Bizseek」というサイトで、ここに探求本を登録すれば、Bizseekに加盟している古書店群が在庫を確認してくれるほか、このサイトを訪れる一般消費者との個人売買も可能だ。いうなれば、古書市とフリーマーケットとをあわせた機能を持つ。
そこで実際にBizseekを利用してみた。まずはホームページhttp://www.bizseek.gr.jp/book/にアクセスし、利用者登録をおこなう。申請フォームに個人名、メールアドレス、パスワード、住所、電話番号などのデータを入力する。個人名およびメールアドレスは非公開とすることも可能だが、個人売買を希望するなら、最低限、メールアドレスは公開しなくてはならない。私はとりあえずどちらも公開しておいた。
申請フォームを送信すると、数分後には利用者登録が終了したという案内がメールで届く。さっそく登録のためのページにアクセスし、過去三年ほど探して見つからなかった本九冊――大和和紀の『私の兄はヌードロン』『ダンディライアンの丘』『真由子の日記(2)』『先生にタッチ!』『初恋戦線異状あり!』、美内すずえの『はるかなる風と光(3)』、本村三四子の『おくさまは18歳(3)』、忠津陽子の『美人はいかが?(4)』、和田慎二の『銀色の髪の亜里砂』――を登録した。いずれも文庫判や復刻版、再収録版ではなく、オリジナル版を対象にした。マニアならわかるとおり、現在は流通量が少ないものばかりで、一冊でも見つかればラッキーだろう。
希望価格は空欄でも構わないのだが、今回はあえて相場と考えられる水準の下限あたりの価格を入れてみた。個人売買を可としたので、相場通りの数字を入れると、勘違いした一般消費者から状態の悪い本を高値でつかまされる危険性があると考えたからだ。希望価格を論外に安くすると反応が悪いという意見もあるが、よほどのマニアでもないかぎり、「適正価格」などとわかるはずがない。「この値段なら買いたい」という数字を入れるのが結局は正解だろう。
登録から十二時間後には、早くも『銀色の髪の亜里砂』があるとの連絡が二件来た。しかし、念のために希望するマーガレット・コミックス版かどうかの確認メールを送ったところ、一方は集英社漫画文庫判、もう一方は白泉社花とゆめコミックス版だった。探求情報の備考に明記しておいたにも関わらず、こういう間違いが起こるのだから注意が必要だ。
同じ日に、「るいるい」というフリーマーケットの主宰者から『おくさまは18歳(3)』があるとの連絡が入った。ここはBizseekの加盟店ではないが、主宰者が私の探求掲示を見てくれたのである。注文の前にそこのホームページにアクセスしてみると、いずれ揃えておきたいと思っていた漫画が二冊売りに出ていた。古書通販を利用するときは、一箇所で一度になるべく多くの本を買うことで、振替手数料や送料などを節約できる。このときも新たに見つけた二冊をあわせて注文予約をした。
翌日、古本マンガ専門店ロードから『初恋戦線異状あり!』があるというメールが届いた。提示価格は希望の倍だったが、もともとの設定が低めだったので、十分に許容範囲だった。この本にもすぐに注文予約の返事を送った。ちなみにすぐに反応のあった以上の二冊は、いずれも通販ページに掲載する前の在庫だったという。インターネット上で公開される前に手配できるところが、探求本という仕組みの大きな威力である。
その後三日間は、イタズラなのか操作ミスなのか、本文が空白のメールが三通来たのみだった。が、登録後五日目には、古本GO WESTというところから『先生にタッチ!』があるというメールが来た。提示価格はこちらの希望より若干高いだけだったので、すぐに注文予約を入れた。翌日、すべての支払いを郵便局からの振替で済ませた。その三日後までには、どの本も無事に送られてきたが、梱包は十分すぎるほどしっかりしていた。
Bizseekに登録した探求情報の有効期限は一ヶ月だ。期限内に見つかった本があったときは、登録した探求本情報を更新しておく。これは強制ではないが、多くの店が本を探してくれる以上、すでに見つかったものを知らせるのもエチケットの一つだろう。探求中の本については、掲載期間満了の一週間前に、延長するかどうかの確認メールが届くが、Bizseekを利用したマニア数人の話によれば、見つかるものはだいたい一週間以内に反応があり、それ以降は、ほとんど音沙汰がないということだ。私も延長しなかった。
結局、Bizseekに掲示した九冊のうち、一冊はたまたまアクセスした人から、二冊はBizseek加盟店から見つかった。それまでなかなか見つからなかった本が、瞬時に三冊もゲットできたのだから、この仕組みはかなり効果的と評価していいだろう。ちなみにこの期間中、懇意にしている古書店でさらに二冊が見つかった。
最後まで入手できなかった残る四冊のなかには、難関中の難関ともいうべきものが含まれている。さすがにそこまで希少なものになると、インターネットを利用したところで、容易に見つかるものではない。とはいえ、レアものというのは、持てる手段を総動員して探すもの。それを考えたら、インターネット通販はマニアにとって強力な調達ルートになっていると断言できる。
別冊宝島494 お宝コミック・ランキング | |
---|---|
宝島社 2000年3月25日 840円 4色カラーの豊富な図版で多数の稀覯本を紹介しています。 |
ネット通販はきわめて盛衰の激しいジャンルのひとつである。「3軒茶屋の2階のマンガ屋」は三軒茶屋から移転し、現在では店売りをせずに八王子でネット通販のみの販売をおこなっている。また、Bizseekが運営していたネット通販サイトEasySeekは楽天に吸収され、現在は楽天フリマの一部となっている。
なお、別冊宝島での実際の原稿では、ここに掲示した読み物に続いてネット通販サイトの紹介を行っていたが、こうした事情があるため、その部分はwebへの転載をおこなわないことにした。ネット通販を利用したいのなら、Yahooオークションまたは楽天フリマを利用するのが現時点ではベストであろう。