「France News Digest」(France News Digest/発行)
江下雅之
十月九日に国民議会でPacs(pacte civil de solidarite)制度が審議される。これが成立すれば、結婚、同棲とは異なる第三のカップル制度が誕生することになる。
Pacsは結婚ほど当事者の義務が厳しくないかわりに、相続や居住に関する権利の一部が制限される。同棲(union libre)に比べれば遥かに結婚に近い。結婚との最大の相違点は、同性カップルも対象になっていることである。このことから、「仏政府、ついに同性愛を公認か?」と言う人もいるだろうが、セックスは個人の好みであって、国が関与する問題ではない。結婚とは個人間の契約であり、今回のPacsでは、カップル間にあらたな契約関係を設けることなのである。
ではなぜこうした制度化がおこなわれるようになったのか。Pacsが同性愛カップルの権利を認めるという文脈を持つのは確かである。しかし、それ以上に家族の枠組みが変容してきた流れに注目すべきである。家族を構成する要因には、血縁関係、同居関係、扶養関係などがあり、従来は各要因がおおむね重なり合っていた。ところが結婚率の低下、離婚率の増加、未婚カップルから生まれた子どもの増加などにより、各要因が乖離するようになったのである。こうした状況で、フランス社会は同居関係を重視するようになってきた。同居関係となれば、ヘテロである必然性は薄くなる。同性カップルに「結婚」が認められるのは、必然的な流れなのだ。
家族の枠組みが歴史的に変化してきたことは、フィリップ・アリエスなどの社会史研究者が実証している。日本も例外ではない。昨今、家族の崩壊が主張されているが、それは現在の枠組みが変化しているにすぎない。離婚率の増加などはフランスと同様だが、はたして日本でも家族イコール同居人という認識に変わっていくのであろうか。
【参考】L'Express 1-7 octobre 98
ここ数年、十月は大学新入生のデモが半ば風物詩化していたが、今年はリセの生徒たちが主役である。十月十五日・二十日にパリ市内で行われたデモには、数万人規模の高校生が集まった。これを見て、フランスの高校生の活発さ・自己主張の強さを再認識した人も多いだろう。自らの要求を堂々と主張する姿を、頼もしげに眺めた人もいるかもしれない。それに比べて日本の高校生は……という比較をしたくなるが、ここでは教育をめぐる「市場」という視点から背景を探ってみたい。
十月八日にFrance 2で日本の教育現場に関する報道番組が放映された。題して「L'education a la japonaise」。日本の教育熱心な親たちは、幼児期のうちから子どもを厳しい競争環境に置くといった趣旨である。内容は興味本位の部分が多かったけれども、平均的日本人が教育に対し並々ならぬ投資意欲を持っているのは、ほぼ事実と認めていいだろう。そして教育熱心な親たちは、教育環境に対しても厳しい目を持っている。
フランスの高校生たちは、その教育環境の改善を訴えるためにデモを行った。しかしこれが現在の日本なら、貧弱な環境の高校など、「市場原理」で淘汰されてしまうのではないか。大都市圏は私立高校がいろいろな特色を競っている。若年人口の減少により、高校側も生き残りに必死である。環境劣悪な高校は、すぐに「お客さん」を逃してしまうに違いない。
フランスでは名門リセ入学をめぐる受験競争があるという話を聞かない。大学も同様である。グランゼコールは例外だが、平均的フランス人にとって、日本的な受験競争などまずは一生無縁の話だろう。別の見方をすれば、これは高校も大学も、「消費者」からの厳しい選択にさらされていないということでもある。デモで争点の教育環境の問題は、こんなところにも原因があるのではなかろうか。
■多面鏡
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週刊新聞、France News Digest社/発行、1990年創刊
フランス在住の日本人向けに無料配布されている日本語の週刊新聞である。インターネットがまだ普及していなかった時代、OVNI、Jeudi Paris-Tokyoとともに、在フランスの日本人にとって日本のニュースを知るとともに、ヨーロッパのニュースを日本語で知るための貴重な情報源であった。
ニュース以外には個人情報を掲載する欄があり、帰国売り、アパートのバカンス貸し、ベビー・シッター募集などの情報が載っていた。在仏日本人の生活情報誌でもある。
なお、発行は週刊だが、わたしのコラム連載は隔週であった。