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96年6月の日記は、パソコン通信NIFTY-Serveの「外国語フォーラムロマンス語派館」に書き散らしていたものを再編集したものです。ただし、タイトルは若干変更したものがありますし、オリジナルの文面から個人名を削除するなど、webサイトへの収録にあたって最低限の編集を加えてあります。
当時の電子会議室では、備忘録的に書いた事柄もあれば、質問に対する回答もあります。「問いかけ」のような語りになっている部分は、その時点での電子会議室利用者向けの「会話」であるとお考えください。
藤田さんに貸してもらった『赤いセーターは知っていた』によると、ギロチン処刑は20世紀初頭まで公開されていたそうですね。死刑を公開にすれば犯罪抑止力が増すという主張もあるんだけど、当時はそんな効果があったのだろうか?
日頃の出不精がたたって、なんとなく巴里に行くのが面倒臭かったのだけど、御廚さとみの漫画『裂けた旅券』を読んでいるうちに、むしょーに巴里が恋しくなってしまった。この漫画は15年ほどまえにビッグ・コミックで連載されていたものなんですが、主人公は高校卒業後に巴里に渡り、そのまま20年も住み着き、ポン引きなど怪しげな職業を重ねたうさんくさい人物です。途中から通信社と契約するジャーナリストになったり、年齢が34〜37歳という設定から、みょーに親近感を覚えてしまう(笑)。
御廚さとみの絵の精緻さは定評のあるところですが、この漫画の巴里の街並みは絶品ですね。フランス人には大友克洋が人気だけど、街の描写力は御廚さとみの方が上という気がする。どちらもSFタッチが得意だけど、御廚さとみは現代という臭いもきっちり表現しているって感じです。ただ、人物画はちょっとアメリカ風なので、そのあたりがフランス人には受けなかったりして。
以前は巴里と京都の類似性をいろいろ感じたものですが、御廚マンガを読んでいると、巴里と横浜の共通性を考えてしまう。どちらも「近代」の都市テイストの宝庫、という感じで。ただまあ、横浜の都市テイストも、本牧の米軍キャンプ返還以来、ずいぶんと希薄になったなあ、なんて思います。『裂けた旅券』に描かれている巴里の街角を眺めると、懐かしいような悲しいような切ないような感じになってしまう。ジャンルは違うけど、ロベール・ドワノやドミニック・ジェラールのモノクロ写真の世界なんですよね。大友克洋はやっぱりフルカラーだな、ありゃ。
藤田さんの訳書『死刑執行』(新潮社)をざっと読んだのですが、最後の処刑の場面はすさまじいですね。もちろん首を切られている場面は描写されていないけど、刑場のある刑務所に向かうところから、庭で水をかけるところ(血を流していたのだと思う)までが、非現実的なドラマという感じで流れている。ついつい「ノンフィクションはフィクションである」という箴言を思い出してしまう。
この本で描かれた刑場はラ・サンテ刑務所にあるというのだけど、ここはパリの我が家から徒歩10分ほどなんですよね。郵便局に荷物を取りに行って、帰りにちょっと逆方向に向かえばすぐに刑務所の壁に突き当たる。で、ギロチンはその中庭にぽつんと置かれていたらしい。正直なところ、ちょっとぞっとしました。
ペタンクはうちの近くだとリュクサンブール公園の南西側、それに Jussieu のローマ遺跡でよくやってます。遺跡が遊び場になっているのが、とてもとても不思議な感じでした。ニッポンでいったら、古墳でゲートボールやるようなもんだから。
クレープならモンパルナスの通称「ブルトン街」がオススメです。ブルターニュ出身の友人が、「巴里で唯一、まともなガレットを食える店」がります。その店に行くには、Metro 12 Vavin で降りて奇数番地側に出る。モンパルナス通りをタワー方面にそのまま歩き、道の反対側に教会が見える次にぶつかる路地(角にはムール貝専門レストラン)を左に入って50メートルほどだったかな。途中、路地の左手にやきとり屋があります。
この路地、たしか rue Montparnasse っていったと思う。おすすめの店以外にも何軒かあります。たしかにサンミッシェルやムフタールよりもうまいっすよ。店の名前は失念した。ニッポンから誰か来ると、たいてい Intermede、La Crete、このクレープ屋に案内するのがワタシのパターンです。
VISAはもうとっくにおりていて、すでにパスポートを渡していて、あとは取りに行くだけの状態……になって二週間経過。自由業恒例の修羅場のまっただなかで、外出先は最寄りのコンビニだけという日々です。あ〜あ。でも出発まであと一ヶ月っきゃないんで、仕事を片づけないといけない。
正直なところ、VISAが予想外に簡単におりてしまったんで、なんだか巴里に戻るのが妙に面倒くさくなってしまった時期もある。だけど梅雨入りして、蚊がぼちぼちうっとーしくなると、やっぱり夏のヨーロッパが恋しくなってしまう。
夜なべ仕事やっていると冷えたソフトドリンクが必需品なんですが、巴里に帰れば Liptonic と Perrier をじゃんじゃん飲めるのがうれしい。むかしはガス入りの水なんて大嫌いだったんだけど、馴れると病みつきになるんですよね。Odeon の Danton でペリエをちびちびやりながら仕事を……なーんてことがまたできると思うと、やっぱ嬉しくなってしまう(笑)。
Brasserie Port Royal の指定席は、もちろんそばにコンセントがある席(笑)。あー、その前に PowerBook のアップグレードをすませておきたい。
Qu'est-que c'est? が「ケツ貸せ」っていうネタは、わりと古典的。英語だとこの種のはぎょうさんある。「掘った芋いじるな」「知らんぷり」「藁」とかね。
レストランでお勘定を頼むとき、左手の平に字を書くまねをして口パクで「お勘定!」ってやっても、ちゃんと通じます。「お勘定」というときの口の動きが、「l'addition」にけっこう似ているので。
あと、手振りでは右手でお札を繰る仕草も「お勘定」の合図になりますね。カフェでは人指し指ピン、なじみのギリ飯屋では札束勘定ポーズを使っております。べつに深い意味で使い分けているわけでもないんですが。
「イギリスはヨーロッパじゃない」という説に賛成を一票。
大学とかでもけっこう「ヨーロッパ人とアングロ・サクソン」って区別をしてますね。
ヨーロッパで紙幣が使える自販機の多い国はドイツです。数年前に切り替えられたマルクの新札には、金属ストライプが埋め込まれているんですが、そこに数字が刻印されてるんです。で、紙幣の使える自販機はそれを読み取るのね。ポンドもたしかそんなスタイルになったかな。例の星の王子さまの新札が出たとき、フランでも金属ストライプを埋め込んだから、てっきりそうなると思っていたのだ。でも数字は刻印しなかったみたいね>フラン。
マルクの精緻なデザインとフラン紙幣を比べると、「マルクは強いぞ〜」という実感が湧いてくる。そうだ、相場がようやく待望の円高に向かいそうです。上がれ上がれ、あと2割上がれ>円の対フラン相場。
visaが下りて、あとは出発の準備に入ったわけだが、海外への長期滞在となると、通常の引っ越しとはだいぶ様子は違う。日本で使っている家具をなんとかしなければならないのだ。車のこともあるし。
前回92年の引っ越し時には、アパートは会社の後輩が引き続き住み、家具も我々のものをしばらく使ってもらっていた。彼らは2年後に転居することになったのだが、その際に我らの家具は姉夫婦のマンションに置かせてもらった。姉夫婦が転居し、それまでに住んでいたマンションは一時的に荷物置き場兼出張時の寝床に使うことになっていたので、こちらの家具も一室にまとめて置かせてもらうことができたのだ。使っていた車は会社の後輩に預けた。
95年の帰国時には、これら預けていた家具や車を引き取るだけでよかった。しかし、そのわずか一年後となると、もう一度預けなおせばいい、というわけにはいかない。
さいわい、友人の一人が結婚して神奈川県内に引っ越すことになった。そこで彼らに家具付きで部屋を貸そうかと申し出たところ、向こうもなるべく出費を抑えたいということで、申し出を受けてくれた。自動車は別の知人が通勤用に使ってくれることになった。
フランスに永住すると決めてしまえば、日本での家財道具はすべて処分してしまえばいい。しかし、数年で再び帰ってくる可能性が高いので、生活のインフラをすべて一掃するわけにはいかない。ゼロから買いそろえたら、とんでもない出費になってしまう。このときも幸運な巡り合わせに助けられ、なんとか日本に戻ってからも生活には困らない体制を整えることができた。
(2006.3.12記)