21世紀の日記
20世紀の日記

*この日記について

99年1月の日記は、パソコン通信NIFTY-Serveの「外国語フォーラムロマンス語派館」に書き散らしていたものを再編集したものです。ただし、タイトルは若干変更したものがありますし、オリジナルの文面から個人名を削除するなど、webサイトへの収録にあたって最低限の編集を加えてあります。
当時の電子会議室では、備忘録的に書いた事柄もあれば、質問に対する回答もあります。「問いかけ」のような語りになっている部分は、その時点での電子会議室利用者向けの「会話」であるとお考えください。


1999年1月30日 旧姓

 フランスの戸籍法はとてもマッチョで(笑)、結婚したときの女性側の名前は自動的に旧姓プラス男性姓になってしまうのです(旧姓がミドル・ネーム的になる)。で、子どもの名前は男性姓になる。日本のような選択幅は一切ないのですね。ですから女性が公的な文書に名前を登録するときは、夫の姓だけでなく旧姓を記入するのが一般的です。
 滞在許可申請などで両親の名前を記入するときも、母親の方は旧姓も記入しなくてはいけません。ぼくの両親は母方の姓を選択していたので、かつて滞在許可申請をおこなった際、当然ながら母親の現姓と旧姓が一緒になってしまう。で、係員から「nom de neune fille の意味がわかるか?」と確認され、日本では妻側の姓を選択できるからと説明したら、それは非常に民主的でよろしいですねと答えておりました(笑)。
 ただ、ぼくが一般に知っていた用例は、
 Madame 本人のprenom 旧姓-夫姓
 が多かったので、Madame Jacques CHIRAC に違和感が大きかったのですね。個人の名刺では当然ながら「本人のprenom 旧姓-夫姓」という形式ですから。
 carte de residence は一般に「正規滞在許可証」と呼びます。俗には「10年カード」ですけどね。うちは滞在期間が一度中断したことになっているので、今年はやっと10年カードが申請できる。

1999年1月28日 Madame Jacque CHIRAC

 a posteriori には(笑)、 epoux/epouse = 配偶者 という感じだと思います。文語的で格式張った言い方を口語で使うと、かえってギャグっぽくなるというのは、日本語でもおなじですよね。ただ、オフィシャルな雰囲気のある場では(相手が友人ではなく取引先とか公式なパーティとか)、たとえ口語であっても femme よりも epouse の方が無難なのかなあ、という気がします。フランスではそういう場に列席したことがないからわからん(笑)。
 そういや、いつだったかなにかのコンクールの招待状が送られてきたとき、主宰団体の名誉総裁がシラク夫人だったんですよね。で、その名前のところに
 Madame Jacque CHIRAC
 と書いてあったのだけど、一瞬悩んでしまった。ファースト・レディの表現は epoux のフルネームに Madame を付けるのが一般的な用例なんでしょうかねえ。でも zippergate報道で Madame Bill CLINTON って表記は見た記憶がないんだが。

1999年1月21日 〜マークは

 「ティルド tilde」ざんす。この記号は数学では頻繁に使いますね。

1999年1月10日 エリートだと

 昨日まで京都を徘徊しておりました(笑)。
 ワタクシは同世代よりも収入の多い会社におりましたので(そのかわり就労時間も同世代の5割増以上でしたが)、chouchouたちの初年度年収・30歳年収を聞いたときに、「そんな程度か」と思いました。バブル期には35歳・年収一千万が高収入サラリーマンの一つの目安になっていましたから、ますますフランス人エリートの相対的低収入を感じました。
 経企庁や国税庁、総務庁などの統計から推計すると、日本の給与所得者世帯の平均年収は720万円、世帯主に限定すると590万円(平均年齢44歳)だそうです。フラン換算すると世帯所得が360K Frs、月平均で 30K Frsですから、家賃10K Frs のアパートを借りられる(笑)。つまり、日本の給与所得者の平均的な世帯所得があれば、パリのいちばん家賃の高い地域(6区ですね)で 4 pieces の高級アパートに暮らせるってことですね。この平均所得、対象を東京に限定すれば800万円ぐらいですから、フランス人のエリートの所得は東京都在住の平均的給与所得者と大差ない、ということになると思います。
 
 フランスの理数系大学院を支えているのは、女性と外国人留学生じゃないでしょうか。パリ第一大学の UFR mathematique, informatique に登録したとき、半分は女性であり、おなじく半分は留学生でした。教官など7割が女性でした。
 フランスの大学理数系だとベトナム人やエジプト人の「天才」たちが集まってくる。それがフランスの自然科学の底辺を支えているように思います。ちょうどインド人や中国人がアメリカの理数系有名大学院のトップを占めているのとおなじ現象ですね。こういうのは、フランス語圏・英語圏のような言語圏のある強みでもあるのでしょう。
 ひるがえって日本を見るに、東大だろうが京大だろうが、理学部に女子学生があまりおらん。ごく少数の女性は化学や生物系ばかり。もちろん数学教室や物理学教室にだっているけれど、数は圧倒的に少ない。だいたい学問の能力に性差などないはずですから、女性科学者が少ないということは、それだけ資質を持つ者の参加が損なわれているってことです。まあ、逆に言えば、日本の科学界はまだ余力があるともいえるわけですけどね。

1999年1月10日 隣の庭

「超俗の大数学者」と呼ばれた故・岡潔は、修士課程まで修了しておかないと雑誌掲載論文が読めない、逆に言えば、論文を読めるようにするためだけに二十代前半まで費やされてしまう、これはもはや科学の危機である、なんてことを述べていました(小林秀雄との対談『人間の建設』にて)。余談ながら岡潔の最大の業績である「岡の原理」はフランスで発表され、その日本語訳が出たのはわりと最近のことですね(笑)。
 アメリカの大学・大学院は、輝かしい部分だけが強調されるあまり、切り捨てられている部分や影の部分が伝えられていないように思います。フランスの大学だって設備のひどさたるや、悲惨なものですしね。結局のところ、どの国の高等教育機関にも「○○の大学にいくのはやめなさい」的な状況があるように思います。

1999年1月4日 大学ランキング

 フランスの給与所得者の平均賃金は日本の3分の2程度だったと思います。で、HEC, ESSEC卒業生の平均初年収が 240K Frs 程度。いまのレートで年収 500万円ほどで、これがトップ・エリートのスタート年収です。どこまで昇給するかは、個人差が極端に大きいと思いますが、日本では大企業サラリーマンの生涯賃金が3億円といわれてますから、額の平均自体はやはり日本の方が上じゃないでしょうか。日本って、大不況といわれた98年ですら、一人あたりの GNPが世界第四位っていうバケモノのような経済超大国ですからね。一〜三位が「小国」ですから、日本人の収入はケタ違いと考えていいと思います。
 ただ、ヨーロッパだと専門分野で徹底した能力給を支給するところがある。とくに金融系。フランスではなくてイギリスの例ですが、97年に年収トップだった人は、野村証券のイギリス法人と契約していた敏腕ディーラーで、獲得収入は4000万ポンド、約80億円だったそうです。これってほとんどマイケル・ジョーダン並み(笑)。本当の頂点の収入を比較したら、欧州に軍配は上がるような気がします。
 世界の大学ランキングは、アメリカの一科学者が勝手に発表したものでしたよね。たしかにパリ大学がトップになっていたけれども、こと理学部の学生に関するかぎり、ワタクシはパリ第六大学よりも東大理学部の方が上だと断言しちゃいます(笑)。教官にしたって、サイエンスで世界的に有名な学者って、たいていは polytech か normale にいるんじゃないんですかねえ。東大高等数理研究院(かつての理学部数学科)が紀要交換をしているのもパリ大学じゃなくてこちらの二校の方です。

1999年1月4日 ENA受験準備

 HEC や ESSEC には、ENA受験準備コースって授業もあるんですよ(笑)。ENA の受験視覚が DEA または grandes ecoles の diplome保持者だっけかな。
 さらに余談なのだけど、厳しい選抜試験がある高等教育機関の受験生は、そうでない学校の登録希望者が大学でやるようなことを、高校生のうちにやるって「法則」がありますね。俗にアメリカの大学生は日本の大学生よりもよく勉強するといわれるけど、数学に関していえば、アメリカの州立大学の1・2年生がやる内容って、日本の高校教科書レベルだそうです。日本の大学生はアメリカの州立大生が大学で必死にやってることを、受験勉強の過程で済ませているというわけだ。フランスのトップGEについても、おなじようなことが言えるんじゃないでしょうかね。


Copyright(C) Masayuki ESHITA

名前

日本では名前がかなりの程度自由につけられるからこそ、「悪魔ちゃん」事件のような事が起きるのだろう。フランスではつい最近まで使える名前に制限があったくらいだ。男ならミッシェルにジャン、フランソワにポール、ピエール等々、女ならクリスチーヌ、マリー、フランソワーズ等々、選択肢はそれほど多くはない。なにしろモデルは聖者なのだから。ジャンはヨハネでポールならパウロだ。だからローマ法王のヨハネ・パウロ二世もジャン・ポール2である。
結婚後の女性の姓も、日本では夫婦別姓とか通称使用とか、いろいろな議論があるけれども、フランスだと男性の姓名が変わることは一切ない。なので、女子しかいない旧家の姓がこれまでにもずいぶんと消滅したそうだ。