21世紀の日記
20世紀の日記

*この日記について

97年1月の日記は、パソコン通信NIFTY-Serveの「外国語フォーラムロマンス語派館」に書き散らしていたものを再編集したものです。ただし、タイトルは若干変更したものがありますし、オリジナルの文面から個人名を削除するなど、webサイトへの収録にあたって最低限の編集を加えてあります。
当時の電子会議室では、備忘録的に書いた事柄もあれば、質問に対する回答もあります。「問いかけ」のような語りになっている部分は、その時点での電子会議室利用者向けの「会話」であるとお考えください。


1997年1月15日 バゲットの値段

 バゲットの価格はたしかに統一ですが、どうやら地域ごとみたいですね。去年(もう二年前か)はたしか 3,80 Frs だったと思う。
 スーパーはたしかに安いけど、バゲットはやっぱ Boulanger の方がうまいような気がする……といっても、店によってかなり味は違うけど。うちの近辺だとパリ第三大学近くの店はいまいちで、ここなら道の向かいにある Champion で買った方がいいと思う。アパートの隣の店はまあまあ許せる方です。Arago通りの店がいちばんうまいと思うけど。
 Pantheon-Sorbonne の校舎に通っていたころは、ムフタールの Cremerie でチーズを買い、最寄りの Boulangerie でバゲットを買い、ナイフで切りながらガツガツ食うことがよくありました。焼き立てのバゲットが偶然買えた日は、それだけで一日、幸福な気分にひたれまんな。

1997年1月15日 アパート

 アパートを契約するときは、かならず大家、賃貸人、先住者が一緒になって etat du lieu という儀式をやります(賃貸人と先住者が別々の日にやることもある)。このときに破損状態を確認しあうんですね。天井のペイントがはがれてるとか、壁にでかい穴があいているとか。
 で、原則的に etat du lieu の状態に比べて破損があるときは、敷金(caution)からその修繕費用を弁済せんとあきません。
 うちももちろん三者立ち会いでやったんですが、そのとき画鋲の穴とか釘の穴とかは、大家さんが無視しそうになったので、あわててぼくが「Bon etat?」と確認したら、「Bien sur」とあっさりいなされました。
 以前友人(モロッコ人とフランス人の夫婦)に「壁に画鋲を打ってええの?」って聞いたら、通常の賃貸契約であれば、ぜんぜん問題ない、ただし壁をぶち抜くときは大家に事前了解が必要だけど、と言われました。このあたりはけっこう自由なようです。
 壁紙の張り替えや絨毯の交換などは事前に確認せんとあかんようですが、店子が費用を持つのであればだいたい問題ないみたいです。たしか通常の賃貸契約だと設備の破損は大家の責任で交換が必要なので、そのための措置だと思いますが。
 ……というわけで、内装の変更は契約上もかなりできる余地がありますし、実際にそうする人も少なくないようですね。そのせいかどうかはわからんけど、DIY店では目立つ場所でドリルを売っております。

1997年1月13日 治安

 パリの治安は(というか、日本国内以外のたいていの都市では)、500メートル四方ぐらいのブロック単位で異なりますし、もちろん時間帯によっても違います。それでも5区・6区はほぼ全体的に安全なところが多いです。逆に11区・18区・20区はやばいブロックが多いけど、それでも快適なエリアはいくらでもあります。
 治安を過小評価するのはよくないですが、ニッポンでは都市の治安に対しちと神経質すぎる情報が多すぎると思いますね。ニューヨークだってパリだって、何百万人って人がごく普通に暮らしているのですから。パリでいちばんおおい死因は、自殺と交通事故じゃなかったっけな。
 安全なブロック、やばいブロックのかぎわけには、それなりの嗅覚が必要です。だから馴れないうちは気をつかいすぎるかもしれないけど、ある程度の原則(トロトロ歩かない、多額の現金を持ち歩かない、ブランドもんを身につけて・着てメトロに乗らない、赤信号で立ち止まらない等々)を守れば、そんな危険なことはないですよ。

1997年1月11日 家賃

 わしが最初に住んでところはポンピドーセンターまで徒歩30秒のところ。んでもって、いまのところに引っ越してきたんだけど、便利なところが見つからなければ Cergy に住むつもりでおりました。一応、業者をまわって物件は見つけたんだけど、Cergy Prefecture 駅の上で、駐車場とカーブの使用権を付けて、52平米の 2 pieces が 3,200 Frs/mois であった。
 郊外だと Carrefour や Euromarche みたいな grande surface がたいていあるから、物価という点でも絶対に有利だしね。要は車さえあればいいんだから。
 まあ、なんにしても、ニッポンの都会よりはるかに選択肢が多いことは確かでしょう。東京に住むったって、おのずの限られてくるしねえ。かといって川崎や横浜、最近は八王子も高いし。古書店巡りをするなら絶対に八王子なんだが。

1997年1月8日 バレンタインデー

 パリにはバレンタインデーの翌々日に戻る予定であります。以前聞いた話しだと、フランスだとバレンタインにはオトコからオンナにプレゼントをするんだとか。だから 2/14はぜったいに日本にとどまろうと思ったわけです。
 いやその、もらえるアテはないんだけど(;_;)、可能性だけは留保したいってわけで。
 ところで週刊現代を立ち読みしてたら、「海外で住みたい都市」人気投票でパリは2位でしたよ。家族4人で生活費が 30万円/月っていうコメントがあったけど、たしかにそんなもんでしょうね。うちがだいたい 12K Frs/mois ぐらいですから。
 ちなみに1位はニューヨークです。やっぱみんなミーハーなんだなあ(笑)。

1997年1月8日 住む場所

 パリで住処を探したとき、ベテラン住民にいわれたことは、「パリに住むなら高くても便利な場所に住め。でないと生活がつまらない」ということでした。どうしても予算があわなければ、中途半端にパリで暮らすよりも、郊外の安いところを探して車を買えともいわれました。
 パリの最大の魅力は職住混在環境なんですよ。普通のアパートの地上階にカフェやレストラン、銀行、映画館があるってね。職住分離環境と違って、昼でも夜でも人通りが絶えないので、自然、活気があります。それに終電や終バスを気にせずに遊ぶでしょ?
 だいたいパリっ子というのは、遊び始めたら時間軸が消失するもんですから。うちあたりでも Les Halles や Montparnass からなら徒歩で帰れるので、住むならやっぱ中心部です。
 で、バゲットはいまは1本 4 Frs ですね。水はスーパーで買えば1本 3 Frs前後です。店によっても銘柄によっても若干違いますが。
 オレンジは忘れた。ニッポンよりかなり安いことは確かだけど。

1997年1月6日 住環境

 5区、6区を選ぶのは正解中の正解ですね。パリに住むならやっぱ中央部、それも左岸がいいっす。16区、17区は高級住宅街として有名ですが、パンピーにはあまり関係ないですね。それにあのあたりは住民がかなり冷たい上に、泥棒が多い(そりゃ収益源がぎょうさんあるんだから)から、一人住まいには適していないと思います。
 一人かカップルなら5区、6区、家族ならいっそ周回道路近辺(最寄り駅が Porte なんたらってあたり)の広いアパート(ただし左岸)か、RER で郊外に出て一戸建て(St.Germain en Lay なら最高だし、Orsay あたりも悪くないっすね)というのが正解ちゃいますかね。うちは13区だけど道の向かいは5区なので、「名誉5区」といってます(笑)。

1997年1月5日 水漏れ

 在パリな人たちの話を聞いて、水道管が心配になってきた。
 ちなみにワタシは水漏れの「加害者」になってことがあります。洗濯中に長電話をしていたら、洗濯機の排水ホースがバスタブからはずれ、浴室を大洪水にしてしまったのでした。幸いにして階下の住民が寛大な女性だったので、「笑って許して」くれました。

1997年1月4日 住みたいところ

 資金と空き部屋があれば、ワタシは5区か6区に住みたいっす。1区・4区の Les Halles 近辺もいいけど、あのあたりはけっこうやばいブロックも多いので、土地勘がないと危険でしょうね。
 知人が2年前に St.Michel の築 350年のアパートにバカンス貸し物件を借りて滞在しておりました。柱は傾いているわ、天井は低いわ、床はきしむはで、さすがにガタがきてるって感じはありましたが、短期の滞在ならああいうところも風情があっていいですね。立地はもう最高でした。広場まで徒歩2分のところだったので。

1997年1月3日 英語

 パリのフランス人は英語を「話さない」んじゃなくて、ほんとに「話せない」人が多いんですよ。いやほんと、まじなはなし六本木あたりのほうが、よほど英語は通じるでしょう。ただし Parisien/ne の方が Tokyoiteよりも外国人観光客ずれしているので、なんとか相手の主張を理解して、フランス語でこたえちゃう、というのが実態でしょう。
 そういえば、友人の一人が道を尋ねようと思って「Do you speak English?」と話しかけたら、「Oui, je parle l'anglais.」と応えられたといっとった。まあ、初歩的な内容なら、相手のいうことぐらいはなんとかわかるから。
 あ、パレロワイヤルとかオペラあたりはもちろん別ですよ。あと、モンテーニュ通りとかマルソー通りみたいなところもね。でも左岸あたりなら、英語は通じないものぐらいに考えておいたほうが無難ですぜ。
 アリアンスでは debutant complet でもクラス分けの試験を受けさせるんですよね。プレーン初心者なら問題文もわからんのにね。


Copyright(C) Masayuki ESHITA

水漏れ事故

フランスの水は硬水なので詰まりやすく、アパートの水漏れはしょっちゅう起きる。水漏れ事故による損害をdegat des eauxと呼ぶが、一応、すべて居住保険でまかなえることになっている。
じつはわたしは巴里に住み始めてまもないころ、自分の過失で水漏れ事故を起こしてしまったことがある。それは、洗濯をしている最中に、日本から電話がかかってきたときのことだ。当時、洗濯機は風呂場に置いていた。古い型の洗濯機を使っていたのだが、風呂場には専用の排水溝がなかったため(これ自体はめずらしくない)、風呂桶経由で排水していたのだ。
ところが電話の最中に、風呂桶にひっかけていた排水ホースがはずれてしまったのである。ホースの先端が床に置かれた位置になると、給水もストップしない仕組みになっているため、風呂場の床に延々と排水が続く結果となった。階下に水漏れをしないはずがない。
当然、階下の住民がやってきた。そのときもまだ、わたしは電話中だった。その住民(若い女性)がなにやら早口でまくしたてているのが、さっぱりと理解できなかったので、そこは正直に「よくわからないのだけど……」と応対したのだと記憶している。向こうもあきらめて階下に戻った。
ところが、電話口に戻ろうとしたとき、風呂場が大洪水状態であることにようやく気づいた。すぐに電話を切り、水道の栓を閉め、水浸しになった床を必死に拭き取った。その最中に、またしてもドアのベルが鳴った。今度は誰だと思って覗き穴から外を見ると、そこには警官が二名いたのである。あわててドアを開けると、警官の一人が「風呂場はどこ?」と尋ねるので、階下の住民が警察に通報したのだとわかった。
こちらもすでに気づいたことなので、警官もすぐに階下に移動し、なにやら伝えていた。その後、風呂場の水を拭き終えたあと、階下の住民に謝罪に行き、水漏れの状況を見せてもらった。先方としては、こちらが何も理解できなかった様子だったので、仕方なく警察に通報したらしい。とくにこちらを責める様子もなかった。
翌日、学校で友人に事の顛末を説明したところ、被害にあった側が保険で処理するから何も問題はない、と言われた。逆に、こちらが保険に入っていないと、上の階の住民が水漏れ事故を起こしたとき、自前で補修する必要があると言われた。その日のうちに居住保険に加入したことは言うまでもない。その後、本当なら、アパートの契約直後に入る義務があったことを知った。
(2006.3.12記)