「月刊ネットピア」(学習研究社/発行)1994年7月号掲載
江下雅之
画面の中央には、足を高々とあげた若い男性の裸像が表示された。
何を意味するか、すぐには把握できなかった。ついさっき、とあるアダルト専用BBSからダウンロードしたファイルであることは間違いなかった。
なかなか珍しい体位である。インドの古き聖典、カーマ・スートラには、該当するパターンが掲載されているかもしれない。
数秒後、ようやく複数の裸体男性の姿とその位置関係を認識できた。これはカーマ・スートラの対象ではなく、いわゆる「かーま」であった。
ホモ関係は研究対象外なので、即座にファイルを閉じた。ただ、モデルが美男子だったので、「やおい」研究家の知人に、バイナリーメールで送ることにする。
気を取り直して二つ目を表示させる。不安はあったが、せっかくダウンロードしたのだ、見ないのはもったいない。
今度はごく普通の特出しであった。鑑賞する気になる画像に巡り会えた。思わずほっと溜息が出る。
アメリカでは、ポルノ画像を扱うBBSが少なくないようだ。私が知る範囲でも、The McHenry BBS、Rusty Edie's BBS、Prizm Image Centerといったところが、なかなか充実したライブラリーを揃えているようだ。比較的大手の欧米パソコン通信サービスでも、時折これらのBBSから転載された画像が混じっている。
登録されている内容は、おとなしいヘアヌードからグロまで千差万別だ。一通り眺めると、なにやら自分の知見が著しく拡大したという気がするほど、いろいろな形態、組み合わせの画像がある。
一応、成人のみという条件は課せられているが、たいていのBBSでは、すべてが自主申告制だ。誰でもその気になれば、画像をダウンロードできる。
フランスだと、ミニテル(ビデオテックスの一種)でもこのような画像の提供サービスがある。あるサービスを覗くと、ノーマルなポルノから、ホモ、レズ、サドマゾなど、きちんとメニューに表示される。
ここまでは非常に親切なサービスなのだが、パソコン通信と違って、ミニテルの通信速度は1200bpsしかない。なかには300KBを越えるファイルもある。単純計算すると、ダウンロードに三〇分以上要することになる。
フランス・テレコムは、ミニテルの9600bps化を計画中だそうだ。一日も早い実現を願っているファンも多いだろう。
もっとも、無理にミニテルから画像を落とさなくても、おなじくらいのレベルのポルノ雑誌は、キオスクで簡単に買える。どうしても緊急に必要とする事情、たとえば日曜に使用したいというのでなければ、雑誌を買った方が経済的であろう。
CompuServeのような大手のサービスだと、さすがに登録の基準が厳しいようだ。いろいろなフォーラムを探してみたが、専用BBSにあるような画像は探し出せなかった。
ヘアヌード程度であれば、Graphic Corner Forumにいくらでもある。
しかし、二年ほど前の登録画像と比べると、ヘアヌードの数は減ったような気がするのだ。特に最近は、肝心な部分を微妙に隠した画像が増えたように思う。
ここのライブラリーからのダウンロードは無料だが、「完全版」とやらをCD-ROMやディスクで販売している。もしかすると、はるばる日本からヘアヌードを求めてアクセスするネットワーカーをじらし、完全版を販売するための戦略なのではないか、と勘ぐるこの頃である。
月刊誌、学習研究社/発行
1992年創刊
月刊誌、学習研究社/発行、1992年創刊
パソコン通信関係の雑誌としては古手だが、後にリニューアルされた。
パソコン通信サービス、とりわけNIFTY-Serveが一気に会員数を増やした時期に創刊された。技術解説だけでなく、ネットワークを生活に利用するノウハウの解説にも力を入れた誌面づくりをおこなっていた。パソコン通信の初期ユーザが雑誌制作にかかわり、担当の編集者やライターもパソコン通信利用者が多かった。
1990年代後半に入ると、通信の世界もインターネットが主役となることが明白になってきた。それに伴って誌面の中心もインターネットへと移行した。