「月刊Online Today Japan」(ニフティ発行)1994年6月号掲載
江下雅之
三月の最後の週になるとサマータイムに入り、日没は夜の八時頃となる。このコラムが登場する六月ともなると、十一時過ぎでも薄明が残る。
春の訪れは劇的だ。連日の重い雲がのしかかる冬の日々――それが三月に入ると、突然、晴天が続くようになる。「今年は三月の第二週から春になった」と言い切ることもできそうなくらいだ。
ぼくは長らくF1に夢中だったので、F1のサイクルがそのまま季節感を伝えてくれることがある。今シーズンは三月二十八日のブラジルGPが開幕戦だったが、フランスのテレビ放送TF1の中継を見て、「今年も春が始まったなあ」と実感した。ヨーロッパ・ラウンドがやってくるころは、待望のバカンス・シーズンだ。
二年前パリに引っ越したのは、ちょうどフランスGPの頃だった。レースが終わる直前にパソコンをニフティにつなぎ、レース結果を FMOTOR4 のフランスGP会議室に伝えたことがある。
TF1のF1放送はすべて生中継なので、フランスGP以降も速報を送った。むろん、日本GPだけは除いたが。
昨年も FMOTOR4 には何度もアクセスさせてもらった。レース結果はテレビ放送で観ることはできるが、ここの会議室に掲載されるプレス・リリースなどを読むのが楽しみだった。
元マネージャーのすがやさんにお尋ねしたところ、FMOTOR4 の情報は、フランスのミニテルで提供されている Marlboro Racing Service の協力によるものだそうだ。
ミニテルで提供されているのなら、なにも日本にまでアクセスしなくてもいいだろう。少しはニフティやコンピュサーブの課金を節約できるかなと思い、今シーズンのブラジルGPのあとに、さっそくこのサービスを使ってみた。
有料情報はたいてい「36.15」チャネルだ。ミニテル端末のテンキーから、まず 3615 と入力する。パソコン通信でもおなじみの「ピー」という音が返ってきたら、「Connexion」というキーを押す。操作はこれだけだ。
それぞれのサービスを利用するためには、回線に接続したあと、コードを入力する。Marlboro Racing Service のコードは知らなかったが、きっと「MRS」に違いないと思った。
「MRS」と入力したら、案の定、おなじみのマルボロ・マークが出てきた。
グラフィックス画面が表示されたあと、メニューがあらわれた。F1、INDY、……。だいたい、FMOTOR4 の会議室構成と同じようなものだ。
メニューからF1を選ぶと、続いて記事のメニューが表示される。そこから適当なものを選べば、FMOTOR4 でおなじみのプレス・リリースにお目にかかれるわけだ。
さて、と。ここまでは確かによかった。
ぼくのミニテル端末には、プリンタもなければ外部メモリーもない。メッセージはすべてその場で読まなければならなかった。接続料金はそれほど安くない。一分で2.19フラン、約四十円だ。
中身はいうまでもなくフランス語で書かれている。片山右京選手のインタビューさえも、すべてフランス語に翻訳されているのだ。
さすがに斜め読みはできない。読んでいるうちに時間だけは経つ。ダウンロードできないから、最後まで読むしかない。
というわけで、課金を節約しようと思って本場の Marlboro Racing Service を利用しようとした試みは、フランス語力不足のおかげであっけなく頓挫してしまった。今シーズンもやはり、FMOTOR4 のお世話になることにしよう。
月刊誌、ニフティ/発行、1987年創刊
ニフティ社の広報誌として創刊されたが、後に数回リニューアルを行い、この誌名の雑誌は現在存在しない。
有料の月刊誌であったが、NIFTY-Serve会員には無料で送付されていたので、ピーク時の発行部数は100万部を越えていたはず。ページ数は少なかったが、すがやみつる、武井一巳といった、この分野の先駆者による連載が創刊当初から掲載されており、記事はかなり充実していた。
その後、全会員への発送をやめて部数が落ち、リニューアルによってNIFTY-Serveのナビゲーション誌への転身をはかった。また、通信ネットワークの主役がパソコン通信からインターネットへ移行したのにともない、さらにインターネットを中心とした誌面に衣替えしている。