Degustation gratuite ![8]オフ三昧の日々

「月刊Online Today Japan」(ニフティ発行)1994年10月号掲載
江下雅之

 この原稿は、日本で書いている。七月の終わりから約一ヶ月間、身重のカミさんをパリにほっぽらかして、湿気ムンムンの日本に滞在しているのだ。今年の夏はパリでも猛暑で、セーヌ河畔やリュクサンブール公園にはかなりトップレスも多かった。
 南仏ではトップレスを禁止する条例が施行されたそうだ。もっとも、処罰の対象は男性だけだったそうだが。
 日本に着いてから、なにも暑い季節に帰ってこなくても、とさんざん言われた。それとともに、パリから毎日接続するのはたいへんでしょう?――と聞かれることも多かった。
 暑さには閉口したが、ニフティへの接続は、ぜんぜん面倒ではない。ログはどうせオートパイロットが落としてくれる。国際回線料もそれほど高くはない。
 ニフティの課金も、ヨーロッパからだとたいてい割引時間帯を利用できる。フリーウェアなどは、最近はコンピュサーブのJAPANフォーラムにも登録されていることが多い。
 唯一果たせないのが、オフの参加だ。
 最近は、予想以上にヨーロッパからニフティにアクセスしている会員の多いことがわかった。半年ほど前に、在ロンドンの方とぼくとで、「欧羅巴根無草倶楽部」というオフの母体(?)もつくった。ニフティ会員の知人で、ヨーロッパに留学や転勤で訪れるひとは、自動入会になってしまう。
 そんなわけで、パリにいても、小規模ながらオフらしきものは細々とおこなわれている。
 外国語フォーラムと提携関係にある、フランス CalvaCom のメンバーが加わることもある。逆に CalvaCom のメンバーが日本を訪ねることもある。横浜で開催された、世界のマジック大会に参加したフランス人 Mimosa さんも、CalvaComの常連だ。
 パリという場所が場所なので、観光で訪れてくれる仲間も少なくない。今年の五月、六月はパリでもミニオフ続きだった。うちの近く、ムフタール市場に林立するギリシャ料理屋で、どんちゃん騒ぎすることも多かった。
 異国での「定例」オフというのも、それはそれで不思議な気分がして楽しい。夏至の頃のオフになると、それこそ午後十時の西日を浴びながら大騒ぎできる。この気分がとてもけだるいのだ。
 が、会議室でアナウンスされる大規模なオフや、その報告のログなどを読むときは、正直言ってかなり悔しい。二十人以上の規模は、残念ながらまだわれら根無草倶楽部でも動員できない。
 ぼくはほぼ一年に一回の割合で日本に一時帰国している。
 一年程度の期間でも、定期巡回しているフォーラムを通じ、それなりに親しくなる人がかなりの数にのぼる。一時帰国はそういった人たちと会うチャンスでもあるため、ついついオフ三昧の日々となってしまう。
 今回は、正味二十六日間の滞在だったが、オフや宴席その他が二十二回あった。昼と夜のダブル・ヘッダも何度かあったが、おかげで常駐しているFBOOKCの常連さんたちの多くと対面を果たすことができた。これでやっと顔つきを想像しながらログを読むことができるな、という気分になる。
 今回のあまたのオフで、初対面の人からほぼ共通して、
「写真とはだいぶ違いますね」
 と言われた。
「思ったほどきたなくないですね」
 という指摘も多かったが(ほっといてくれっちゅうに)。
 このページに掲載されている写真は、二年前、パリで生活を始めて間もない頃のものだ。あまり野郎の写真で凝っても仕方ないと思ったので、とりあえず手元にある一番まともな(苦笑)写真を編集部に使って頂いた。
 それから現在に至るまで、体重は十一キロ減っている。さらにその間、散髪を一度しかしていない。それも毛先を揃えただけだから、髪は写真よりも二十センチ以上も長くなっている。
 こけ気味の頬に長髪というわけで、オフでは山岸涼子作・厩戸王子を真似すれば、けっこう瞬間芸として通用してしまった。
 この原稿が掲載される頃は、ふたたびパリに戻っている。十月はフランスの新学期なので、根無草倶楽部も新入会シーズンになるかもしれない。新人歓迎オフの準備をしないと。


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Online Today Japan

月刊誌、ニフティ/発行、1987年創刊

ニフティ社の広報誌として創刊されたが、後に数回リニューアルを行い、この誌名の雑誌は現在存在しない。
有料の月刊誌であったが、NIFTY-Serve会員には無料で送付されていたので、ピーク時の発行部数は100万部を越えていたはず。ページ数は少なかったが、すがやみつる、武井一巳といった、この分野の先駆者による連載が創刊当初から掲載されており、記事はかなり充実していた。
その後、全会員への発送をやめて部数が落ち、リニューアルによってNIFTY-Serveのナビゲーション誌への転身をはかった。また、通信ネットワークの主役がパソコン通信からインターネットへ移行したのにともない、さらにインターネットを中心とした誌面に衣替えしている。


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