「月刊Online Today Japan」(ニフティ発行)1996年2月号掲載
江下雅之
夕方のシャンゼリゼ大通りが、クリスマス・イルミネーションだけでなく、車の大渋滞のおかげでライトがあふれかえっている――ちょうどこの原稿を書いているとき、日本のテレビ放送でも、フランスのゼネストと、それにともなう大混乱の状況を報道していた。
もともとフランスはストのおおい国だ。パリ市民などは、良くも悪くもスト馴れしている。メトロがとまっても、市民は淡々と自分で代替手段を探す。「ストは個人が自分の生活を守るための手段」と割り切っている人がおおいため、自分に影響のおよぶストに対しても、比較的寛大のようだ。
だいたい毎年10月中旬から11月上旬が「ストの季節」と考えていい。バカンスが明け、会計年度が切り替わる。日本の春闘に相当するのがこの時期でもある。今年はさらに、政権交代という、ストをうながす要因がくわわった。ある労働者曰く、「はじめが肝心」というわけだ。
12月上旬になると、パリのあちこちでクリスマス・イルミネーションが通りを華やかに飾る。
10月末に日本に戻ってきて、いちばんうれしかったことが、連日の好天だ。パリの晩秋以降は、空が重い。今年は異常気象のため、晴天の日がおおかったらしいが、例年の11月以降は、空を見上げるたびに気が滅入る。晴れ間など期待できないほど分厚い雲が空をおおい、しかも北緯48度という高緯度地方のため、たまに薄日がさすときでも、太陽はいつも建物の陰だ。
冬至前後は日の出も8時過ぎである。通学や出勤のための移動は、夜明け前のまだ真っ暗な時間帯におこなう。はじめて長期滞在でパリにやってきた者には、これがかなり苦痛だ。
それでも、クリスマス・イルミネーションが灯れば、多少は気が晴れる。今年は不景気をすこしでも払拭しようとしたのか、昨年よりも早く点灯したようだ。
ところが、11月末からのストが泥沼化した。スト・シーズンからはずれたこのストは、福祉予算削減を断行しようとする政府に対する抗議活動だ。その激しさは、「革命」とまでいわれた68年の学生運動に匹敵するという指摘もある。
フランス在住のニフティ・メンバーが、街の様子を FLR の5番会議室に伝えてくれた。観光船が通勤用に開放されたり、市内の通勤・通学では自転車どころかローラー・ブレードまで使うひとがいたり、あげくは軍がトラックやらヘリコプターを動員し、通勤の足を確保しようとしたという。郊外からパリ市内に車で向かおうにも、片道3時間かかるそうだ。
ぼくのアパートの近くにある(まだ借りっぱなし)イタリー広場は、政府の調達したピストン輸送用バスの発着場になっているため、広大なロータリーをバスがぐるりと一周、つらなっているそうだ。軍のトラックまでが行き交う光景は、まるで戦場のようだったという。
郵便局のストのため、配送や集配も滞っているらしい。11月末には、ぼくも日本から住民税支払いのための小切手をパリの知人宛に送ったのだが、その知人によれば、「ここ10日ほど、いっさいの郵便物が届いていないし、集配人の姿も見かけない」ということだ。おそらく納付期限までに送ることは不可能だろう。これで徴税事務所だけストをやっていないとかいったら、まったくシャレにもならない。
それにしても、今回のストは政府側も労働者側もまったく強気一本槍だ。そのあたりが、いかにも「フランスの政治家」「フランスの労働者」といったところだが。
月刊誌、ニフティ/発行、1987年創刊
ニフティ社の広報誌として創刊されたが、後に数回リニューアルを行い、この誌名の雑誌は現在存在しない。
有料の月刊誌であったが、NIFTY-Serve会員には無料で送付されていたので、ピーク時の発行部数は100万部を越えていたはず。ページ数は少なかったが、すがやみつる、武井一巳といった、この分野の先駆者による連載が創刊当初から掲載されており、記事はかなり充実していた。
その後、全会員への発送をやめて部数が落ち、リニューアルによってNIFTY-Serveのナビゲーション誌への転身をはかった。また、通信ネットワークの主役がパソコン通信からインターネットへ移行したのにともない、さらにインターネットを中心とした誌面に衣替えしている。