「月刊Online Today Japan」(ニフティ発行)1994年11月号掲載
江下雅之
2年ぶりに暑い夏のパリ、猛暑の日本への一時帰国、それから南仏旅行と、今年は繰り返し夏を体感した。
9月も半ばごろになると、学校の新学期が始まる。フランスではバカンス・シーズンの終わりが、同時に新学年や仕事のスタートでもある。
リクルート・シーズンや始業式のないフランスでは、ういういしい社会人や新入生の姿はない。が、それなりに「新年度」を感じさせる出来事もある。
まず、交通機関のストが頻発する。九月、十月がちょうど日本の春闘シーズンにあたるためだ。パリのメトロやバスは、年中スト(greve)で止まってしまう。
日本の交通ストとの違いは、たとえばメトロがストに入ったとしても、必ず一部の路線は動いているということだ。全線を止めることは「違法」らしい。
だから、初めてメトロのストに遭遇したとき、かなり不思議な気分がした。
勤め人たちは別段会社を休むでもなく、また、駅からあわてて電話をかけまくるというわけでもなかった。みな、動いている路線をめざして、ごく当たり前にに進路を変えるだけだった。
パリではストさえも、生活サイクルに組み込まれているように思う。交通機関の一部が止まったくらいで、都市生活が麻痺することはないのだ。
近くのパン屋(Boulangerie)がすべて営業しているのも、バカンス・シーズンがあけてからだ。夏の間は、店が交代で休みに入っていた。隣のパン屋にも、7月頃はこんな貼り紙がしてあった。
「○月○日より三週間お休みします。この間、○通りのパン屋が営業しております」(注:別にチェーン店ではない)
九月になると、国際郵便もスムーズになるようだ。
FLR の会議室に「絵はがきが消印から一ヶ月のたってようやく届いた」という書き込みがあった。実際、バカンス・シーズンの国際郵便は多少滞るらしい。
もっとも、今年はその停滞のおかげで、余分な税金を払わずに済んだこともある。
7月の末、ぼくは Apple の PowerBook を一台、アメリカのディーラーから個人輸入した。日本滞在中に必要だったのが、日本のディーラーには在庫がまったくなかったのだ。
当然、日本宛に送るよう指示した。が、編に気を利かせたディーラーが、パリに発送してしまった。
「早急にご入り用とのこと。あなたのご出発までに到着可能なので、パリのご住所宛に送りました」
ぼくが日本に発送を依頼したのには、もう一つ、税金の問題もあったのだ。
日本で荷物を受け取れば、関税はゼロ、そして消費税はたったの3パーセントだ。フランスで受け取ると、数パーセントの関税に加え、間接税が 18.6パーセントもかかる。送り先の違いだけで、支払いが二割以上も違ってくる。
すぐにクレームをつけた。いろいろと応酬した結果、荷物を受け取ったら「負け」だということが明らかになった。さっそく、パリ・ドゴール空港の営業事務所に電話を入れ、事情を事細かに説明する。
勝負はあっけなくついた。
「そのお荷物は、まだ通関が終わっていません。バカンス中で職員が少ないため、普段よりも時間がかかりますよ」
再度クレームの電話を入れる。先方の担当者は、通関が終わっていないということが信じられなかったようだ。アメリカの効率的な流通を基準にすれば、それは当たり前だろう。
彼女は自分で確認したうえで、折り返し電話するといった。
数分後、こちらの要求をすべて受け入れるという電話がかかってきた。
バカンスは強し……。
月刊誌、ニフティ/発行、1987年創刊
ニフティ社の広報誌として創刊されたが、後に数回リニューアルを行い、この誌名の雑誌は現在存在しない。
有料の月刊誌であったが、NIFTY-Serve会員には無料で送付されていたので、ピーク時の発行部数は100万部を越えていたはず。ページ数は少なかったが、すがやみつる、武井一巳といった、この分野の先駆者による連載が創刊当初から掲載されており、記事はかなり充実していた。
その後、全会員への発送をやめて部数が落ち、リニューアルによってNIFTY-Serveのナビゲーション誌への転身をはかった。また、通信ネットワークの主役がパソコン通信からインターネットへ移行したのにともない、さらにインターネットを中心とした誌面に衣替えしている。