Degustation gratuite ![20]爆弾テロのとばっちり?

「月刊Online Today Japan」(ニフティ発行)1995年10月号掲載
江下雅之

 この夏、また日本に一時帰国した。昨夏の半分、二週間だけの滞在だったが、例によってオフ漬けと地方巡業の日々だった。
 そのさなか、知人からさんざん心配の電話を頂戴した。パリのサン・ミッシェルでおきた爆弾テロのせいだ。
 被害現場はぼくの自宅からそれほど近くはない。とはいえ、よくいく書店に向かうとき、テレビで中継されたあたりは、バスの窓から眺めているところだった。
 今回被害にあったのはメトロ(地下鉄)ではなく、RER(郊外電車)と呼ばれる路線だ。決してささいな用語にこだわっているのではない。メトロとRERとでは、足としての役割がまったく異なる。
 メトロはせまいパリ市内をめぐるもので、パリ市内の住民の下駄がわりのようなものだ。それに対しRERは、パリの外側に住む住民が、市内への通勤手段に用いている。東京でいえば小田急線や東横線のようなものだ。最近はパリもドーナツ化現象が進んでいるため、このRERはラッシュアワーともなるとかなり混雑する。だから爆弾テロの被害も大きかったのだろう。
 頂戴した電話のおおくは、パリに残っていたぼくの家族の安否を気遣うものだった。こういうときは共同通信のニュース速報を見れば、最新の情報はすぐにわかる。が、あいにくとニフティは定期メンテの最中だった。
 もっとも、テレビ・ニュースで被害を受けたのがRERだと聴いた時点で、家族が巻き込まれた可能性は低いと思った。もっとも、サン・ミッシェルを通るRER B線は、ぼく自身が空港までの往復で頻繁に利用していた路線だった。
 その後別のニュース・ソースから日本人に死傷者がいないのとがわかったので、ことさら電話で確認することはやめた。電話でしか安否を確認できない人も少なくなかっただろうから。
 なお、「日本人には被害が云々」という報道姿勢はしばしば非難される。主張はわからないでもないが、当事者にとって貴重な情報であることは事実なのだ。
 パリの爆弾テロは10年ほど前に頻発した。今回はさいわいにもまだ後追いのテロが起きていない。とはいえ、駅構内や空港などは、厳戒態勢が敷かれている。東京と同様、地下鉄のゴミ箱はすべて蓋がされた。もっとも、パリの連中はたいていところかまわずゴミを捨てるものだが。
 この厳戒態勢の影響かどうかは不明だが、東京からパリに戻る際、空港の税関で荷物をぜんぶ開けさせられた。ド・ゴール国際空港の通関はこれが8回目になるが、はじめての経験だった。
 フランスに限らずヨーロッパはハイテク機器の「侵入」にうるさい。パソコンの持参にはとくに注意したほうがいい。EU域内ではほとんどの場合通関はフリーパスだが、今回のようにストップをかけられるときは、徹底的に調べられる。
 このときぼくは、ノートブックを1台持っていた。税関吏は購入時期と用途をしつこく尋ねてくる。ここできっちり説明できないと、本体価格とおなじぐらいの税金を取られることがあるそうだ。
 万が一のときのために、ぼくはいつでも買ったときの請求書を持参しておく。このときの機種はアメリカから個人輸入したものだったので、請求書は英文だった。以前使っていたマシンは日本で購入したものだったので、ローマ字書きの領収書を店につくってもらった。
 結局このときも、1年以上前に買った事実を請求書で証明できたので、しつこく追求されることはなかった。しかし、当分荷物に対するチェックは厳しい状態が続きそうなので、ヨーロッパに長期滞在や出張で訪れる予定のある人は、英文または入国地域の公用語の請求書または領収書を、事前に用意しておいたほうがいいだろう。ただし、ごく最近購入したものについては、課税対象となる場合がおおいのでご用心。


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月刊誌、ニフティ/発行、1987年創刊

ニフティ社の広報誌として創刊されたが、後に数回リニューアルを行い、この誌名の雑誌は現在存在しない。
有料の月刊誌であったが、NIFTY-Serve会員には無料で送付されていたので、ピーク時の発行部数は100万部を越えていたはず。ページ数は少なかったが、すがやみつる、武井一巳といった、この分野の先駆者による連載が創刊当初から掲載されており、記事はかなり充実していた。
その後、全会員への発送をやめて部数が落ち、リニューアルによってNIFTY-Serveのナビゲーション誌への転身をはかった。また、通信ネットワークの主役がパソコン通信からインターネットへ移行したのにともない、さらにインターネットを中心とした誌面に衣替えしている。


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